進む軍学共同に抗して
ノーベル物理学賞受賞者 益川敏英さん
焦点・論点 (しんぶん赤旗)2015年11月5日
安倍晋三政権の下で大学など研究機関を軍事研究に巻き込む軍学共同の流れが強まっています。ノーベル物理学賁受賞者の益川敏英さんに聞きました。
(聞き手・写真 佐久間亮)
ますかわ・としひで 1940年生まれ。名古屋大学で坂田昌一氏に師事。 2008年にノーベル物理学賞受賞。現在、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構機構長。近著に『科学者は戦争で何をしたか』(集英社)
科学者であるの前に人間たれ
天気のいい日は集会に
-今年度から防衛省が大学などに資金を提供して研究を委託する制度を始めました。軍事研究の呼び水と注目されています。
現段階で防衛省が狙っているのは、具体的な研究成果というより、科学者と親しい関係になることだと思います。いまは基礎研究の応募でも、顔見知りになっておけば、兵器開発の相談もできるようになります。
米国は、ベトナム戦争のときに国防総省にジェイソン機関というものをつくり、ノーベル賞級の科学者を30人ほど集めて、ベトナムの人々をいかに有効かつ速やかに殺すかなどについて議論させました。
例えば、ゲリラを殺した数を兵士に自主申告させると、大抵水増しする。そのことを科学者たちに相談すると、彼らは、殺したゲリラの左耳を切り取り針金に刺して持ってこさせればいいと答えたといいます。
一線越えた
安倍首相
重要なのは科学者にそんなことを議論させたということです。そういう議論に一度かかわってしまえば、その後でベトナム戦争に反対とは言えなくなるでしょう。実際の戦争で、ジェイソン機関がそれほど重要な役割を果たしたとは思えません。科学者の精神動員こそが一番の狙いだったと思います。
いまは日本の科学者のなかに軍事研究に対する拒否反応があるけど、一度泥水を飲んでしまえばずるずるっといってしまう。軍事研究に対する敷居を下げている段階だと思います。
-安倍政権が戦争法を強行するなど右傾化の流れのなかで軍学共同が進んでいます。
安倍さんは一線を越えています。憲法のどこをどう読んでも、戦争ができるとは書いていません。それを勝手に解釈し直して戦争ができると言っています。
1年ほど前、あるテレビ番組で特定秘密保護法のことを批判したら、数日後に外務省の方が研究室に見えて「先生が心配されるような問題はありません」と説得しにきました。初めての経験です。
僕は、米国の核開発の中心人物だったオッペンハイマーの話をして、お引き取り願いました。
オッペンハイマーは優秀な物理学者で、核開発で指導的役割を担いました。ところが、米国の4年後にソ連が核開発に成功するとスパイの疑いをかけられ、事実上、研究者生命を断たれてしまいました。特定秘密保護法も、平時にはなんでもない顔をしていて、あるときになると突然勳きだす。無実の人間に疑いをかけ、怪しければ排除することが堂々とできるようになります。
名古屋大学には「戦争を目的とする学問研究と教育には従わない」ことをうたった平和憲章があります。この憲章に対する攻撃も強まっています。
科学は連続的なものなので、科学者が自分の研究を軍事に使ってほしくないと思っても使うことができるし、軍事転用できるから研究をやめろというわけにもいきません。研究成果を軍事に使わせないためにどうするかは、研究者個々人の問題ではなく、政治の問題だと思います。
坂田さんの
言葉いまも
-戦後、科学者として平和運動をリードした坂田昌一さんの書を、研究室に飾っていますね。
「科学者は、科学者として、学問を愛するより以前に、まず人間として、人類を愛さねぱならない」という書です。坂田先生が脊髄がんでお亡くなりになる前、小康状態で退院されたときに書かれたものです。
坂田先生がすごいのは正々堂々と言い切るところです。これはかなり精神力がいる。僕だったら言葉の後に「なんちゃって」と緊張緩和の言葉をつけてしまいます。
科学者は誰でも自分の研究をしているときが一番楽しい。僕はいつも、研究室に閉じこもっている人間がいたら、今日は天気がいいからおまえも外を歩いたらどうだと言って集会に連れて来いと言っています。そこでの議論を見たら、おのずから生活者としての感覚が育っていくはずです。自分たちの孫がどういう環境で生活しているのかということなども見えてくる。
市民と触れ合うことで生活者としての視点が科学者のなかに生まれ、科学者としての知識と生活者としての感覚が結びつく。「科学者である前に人間たれ」の精神は、そうしたなかで形成されていくのではないでしょうか。いまのような時代だからこそ、科学者にはもっと足を外に向けてほしいと思います。
シリーズ 軍事依存経済
(しんぶん赤旗)2015年11月19日~12月4日
より
①溶け込む軍産学
狙われる科学情報
首都・東京の一等地、六本木に居座る麻布米軍ヘリ基地、通称ハーディーバラックスの一角に、科学技術の情報収集を専門とした諜報機関が集まる建物があります。支局を構える米軍の準機関紙の名前から星条旗新聞ビルと呼ばれています。
最高の装備維持
入居する陸軍国際技術センターアジア太平洋支部(ITC-PAC)の任務は、陸軍の装備を最高水準に維持するため「科学技術に関与している海外の企業、大学、研究所、国家軍事研究開発機構と交流を図り、将来を見越した革新的アプローチを開始すること」(日本防衛装備工業会の機関誌『月刊JADI』2004年8月号)。守備範囲はアジア太平洋からサハラ以南のアフリカまで広範囲に及びます。
ハーディーバラックスには、同様の任務を持つ海軍グローバルアジア研究所(ONRG-Asia)、空軍アジア宇宙航空研究開発事務所(AOARD)も入居しています。諜報員がめぼしをつけた研究者に対し、米軍は研究資金や学術会議の開催資金を提供します。
日本有数の理工系大学として知られる東京工業大学は05年、テーマが基礎研究であることと、成
果が公開であることを条件に軍事研究を認める「要領」を策定しました。東工大で軍事研究の可否を判断するのは学長直属の機関である研究戦略室です。同室は08年以降、米軍からの11件の資金提供について審議しています(AOARD9件、ITC1件、ONR
G1件)。
戦争加担の反省
東工大職員組合の石山修書記長は、米軍から同大への研究助成は08年以前からあると証言します。研究戦略室で審議されるのも軍から直接資金が提供される案件だけで、資金提供を伴わない研究協力や、民間団体が間に入ったものは対象から外れるため「その全貌は把握できない」のが実態です。
日本の科学界は戦後、侵略戦争に科学者が加担した反省から、軍事研究と一線を画してきました。日本学術会議は1950年「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とする声明を発表。67年には、米陸軍極東研究開発局が日本物理学会主催の国際会議に資金援助していたことが発覚したことを機に、改めて「軍事目的のための科学研究を行わない」と決議しました。その壁が今、急速に崩されようとしています。
安倍政権下で進展する軍産学共同の実態を追います。
3000万円の呼び水
防衛省は科学界との結びつきを着々と強めています。06年からは大学や公的研究機関との技術交流をスタート。今年度からは、大学や企業から軍事技術のアイデアを公募する「安全保障技術研究推進制度」を始め、9件を採択しました。予算は1件当たり最高年間3000万円(最長3年間)です。
技術マップ作成
10月には、防衛装備の調達・開発を一元管理する防衛装備庁を創設しました。
「軍事転用可能な技術が国内外にどのように存在するか把握することも、任務の一つだ」。防衛省の審議会委員を務めたことがある安全保障研究者は、防衛装備庁の役割をそう指摘します。さながら日本版ハーディバラックスです。
公募制度について同氏は「理工系の機械は1台1000万円以上するものもざらにある。3000万円では、具体的な成果を求めるというより、軍事研究への呼び水という側面が強い」と指摘します。
109件の応募のうち80件を大学や公的研究機関が占めました。防衛省は、防衛装備に転用可能な技術を持つ大学や企業の技術マップ作成を進めています。膨大な応募書類は、そのための格好の資料になります。
海外派兵を支援
東工大からも複数の研究者が応募し、持ち運び可能な超小型バイオマスガス化発電システムの研究が採用されました。本紙の取材に東工大は、研究は有機ごみや木くずからエネルギーを効率よく生み出すためのもので、「被災地等での利用を視野に入れたもの」と文書回答しました。
再生可能エネルギーによる持ち運び可能な発電システムが実現すれば、前進基地の発電に使う燃料輸送が不要になり、兵たんの負担が大きく軽減されます。安倍晋三政権が自衛隊の活動範囲を地球規模に広げようとするなか、それを技術的に支援することを狙ったテーマ設定です。
名古屋大学名誉教授の池内了さんは、科学者には、科学者であればこそできる役割を果たし、公衆の福利に寄与するという社会的責任があると語ります。その一つが、科学や技術の使われ方について、社会に助言することだといいます。
「科学者は自らの研究テーマを発展させるためなら軍の予算でももらいたいという誘惑が常にある。科学者は自らの社会的責任を自覚すべきだ」(つづく)
(佐久間亮、杉本恒娟。11回連載の予定。2回目以降は経済面に掲載します)
⑥溶け込む軍産学
ロボット研究の先に
1995年1月17日午前5時46分、巨大な地震が阪神・淡路地方を襲い6400人を超える人命が失われました。現在、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(lmPACT)で災害対応ロボットの開発に取り組む田所諭(さとし)プログラムマネージャー(東北大学教授)は当時、神戸大学助教授として人工筋肉などの研究をしていました。
「がれきに4時間半埋もれ一時は助からないと言われた学生もいたし、火の手が迫るなか助けを求める人を残して逃げたと語る学生もいた。自分が研究してきたことがなんの役にも立たなかったことが、いまの研究の原点になっている」
当時、災害対応ロボットの研究は世界的にもほとんど例がありませんでした。「誰もやらなければ百年たってもゼロのままだ」。田所さんは災害対応ロボットの研究に取り組む決意をします。
原発事故現場に
それから16年後に起きた東京電力福島第1原発事故。田所さんが開発に携わった災害対応ロボット「クインス」が、国産ロボットとして初めて事故現場に投入され、原子炉建屋の状況を伝えました。
lmPACTでも、口ボットを自然災害や人為災害の切り札と位置づけます。現状の「ひ弱な優等生」から、極限状況で活躍する「タフで、へこたれない」ロボットへと引き上げることが目標です。
災害対応ロボットの夢が着実に歩みを進める裏で、軍事の世界でもイラク戦争を機に軍用ロボットの利用が加速度的に高まっています。2010年の国連報告によれば、米国の無人航空システムは2000年から08年に50機以下から6000機以上に増加。実戦配備された無人陸上車両も01年から07年までに100両以下から4400両近くに急増しています。
防衛省もロボットに注目しています。同省主催の技術シンポジウムは、昨年は千葉工業大学の「未来ロボット技術研究センター」所長を、今年は人工知能を研究する静岡大学准教授を招き、特別講演を開きました。
軍事専門誌『軍事研究』5月号は、lmPACTに対する防衛省の関心を取り上げています。なかでも同省が79年から研究してきた無人機について「TRC(lmPACTのロボット研究開発の略称)を機に、そのノウハウが生かされることが期待されている」と報じました。
同省では、荷物や装備品を運ぶ多脚型ロボット、隊員の代わりに危険な任務を担うヒューマノイド型ロボットなどの開発も計画されているといいます。
社会的ルールを
田所PMは、防衛省が自身の研究に注目していることは知らなかったといいます。
「わたしは軍事に対して素人なので、なにがそこで求められるのかも分からないし、そもそも大学では軍事研究は禁止だ。はっきり言って迷惑だ」
同時に、災害対応として開発されたロボットが、研究者の意図を超えて軍事転用される可能性はあり得るといいます。それはあらゆる技術に共通した問題だと語ります。
「そこは技術の問題というより、技術を使う人間の問題だ。変な使われ方をしないためには、うまく規制をかけていくこと、社会的にルール化していくことが重要なのではないか」
Legged Squad Support System
https://youtu.be/cr-wBpYpSfE
⑪溶け込む軍産学
平和憲法か軍事か
「昨年6月の『防衛生産・技術基盤戦略』のなかに(防衛装備の開発に)大学を巻き込むと書いたら、大変、大学の方から反対があり、文部科学省でもいろいろ荒れたけれど押し切った。今がまさに転換期だ」「(軍事研究の壁が無くなるのは)時間の問題だ。来年あたりにはしていきたい」
防衛装備庁の堀地徹防衛装備政策部長は、11月末に防衛大学校(神奈川県横須賀市)で開かれた日本防衛学会研究大会で講演し、安全保障関係者を前に自信をのぞかせました。
同氏は、国全体の科学政策を決定する総合科学技術・イノベーション会議についても「今までは学術研究と軍事研究が完全に分離していた」「近いうちに防衛相を主管大臣に加えるべく取り組む」と明言。科学技術政策の立案に割って入ると宣言しました。
後ろめたさ無し
日本がモデルとする米国では、軍学共同は後ろめたいことではありません。東京・麻布の米空軍アジア宇宙航空研究開発事務所(AOARD)に勤務する日本人研究者に取材を申し込むと、次のような返信が米空軍第88航空基地航空団広報部から届きました。
「AOARDはアジアやオーストラリアの大学や研究機関に助成金を出している」「世界中の科学界に多大な貢献をしている」
同部隊は科学技術情報専門の諜報部隊です。
名古屋大学の池内了名誉教授は、戦争放棄を掲げた平和憲法のもと、日本学術会議の決議で戦争目的の研究はしないと誓ってきた日本の科学界は、世界でも先駆的な存在だと語ります。
「平和憲法という世界に冠たる憲法を持っているのだから、日本独特の考え方があっていいはずだ。外国では普通に軍が資金を出しているという″国際標準″をタテにするのはおかしい」
軍事研究を拒否する流れも広がっています。新潟大学は10月に「科学者行動規範・科学者の行動指針」を改正。「科学者は、その社会的使命に照らし、教育研究上有意義であって、人類の福祉と文化の向上への貢献を目的とする研究を行うものとし、軍事への寄与を目的とする研究は、行わない」とうたいました。
広島大学は8月、今年度から始まった防衛省の委託研究制度への応募を認めない方針を決定しました。
吉田総仁(ふさひと)副学長は、「平和を希求する精神」という広島大学の基本理念と、日本学術会議の決議を重視したと説明します。「原爆によって、広島大学も教職員、学生1900人以上が亡くなっている。被爆地という特別な役割を負った都市に開学した大学として、核兵器廃絶や軍縮は重要な問題として考えていかなければいけない」
昨年、科学者有志が立ち上げた「軍学共同反対アピール署名の会」は現在、署名とともに寄せられた声をまとめ、各大学の学長、理事長に届ける準備をしています。
平和時代の創造
世界平和に日本はどう貢献すべきか。ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹は生前、核兵器廃絶と全面軍縮後の世界では日本の平和憲法こそ「文句の無い真理になる」とし、平和時代の創造に向けた日本の役割を次のように語りました。
「私たちが平和時代の創造を考える場合、人類の一員であると同時に私たちは日本人であり、日本国民であることを忘れてはいけない。この二つが両立し得るかどうかというと、幸い私たちは平和憲法を持っている。したがって両立するどころか、世界に向かって遠慮なく平和の呼びかけができるのである。私はこれを有難いことだと思っている」(『平和時代を創造するために1科学者は訴える』)。(おわり)
第一回科学者京都会議声明(1962)
http://www.pugwashjapan.jp/old/kyoto1.html
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首相の強気に疑問 統計で探る日本経済
(東京新聞【こちら特報部】)2016年1月20日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2016012002000130.html
「もはやデフレではない」-。安倍首相は元日の年頭所感で自賛した。デフレを脱却したか否かはその後、国会で論議になったものの、首相は自らの経済政策による景気回復効果に自信満々だ。実際、それを支える数字がある。だが、同時に否定する別の数字もある。双方の関係を突き詰めないので、有権者は容易に判断が付かない。複数の統計を調べ、首相の誇る「回復」の実態に迫った。
(白名正和、三沢典丈)
貧困率は上昇傾向
7年前の数字示す
「三年間で雇用は百十万人以上増えました。十七年ぶりの高い賃上げも実現し…」。首相は四日の年頭会見でも胸を張った。
しかし、十八日の参院予算委員会で、小池晃氏(共産)は「日本は貧困大国になった」と迫った。根拠は厚生労働省の国民生活基礎調査を基にした「二〇一二年の相対的貧困率16.1%」という数字だ。
これに対し、首相は総務省による○九年全国消費実態調査から算出した相対的貧困率10・1%という数字を示し、「日本は世界の標準で見てかなり裕福な国」と返した。議論のたたき台を全く移し替えた形だ。
二つの数字はどうして違うのか。厚労省の調査は全国二千ヵ所の全世帯を対象に所得などを聞き取り調査で調べる。一方、総務省の調査は家計簿を付けてもらう方式。時間的余裕のない生活困窮者は、調査に応じない傾向があるとされる。
ただ、肝心な点はいずれも貧困率は上昇傾向を示しており、何より首相の示した数字は七年前のもの。これでは説得力がない。
実質賃金は減っているのに
同じ構図は、首相が強調する賃金上昇にも当てはまる。経団連の調べでは、安倍政権が発足して間もない一三年は1.83%、一四年は2.28%、一五年は2.52%と賃金が上がった。
だが、この調査対象は原則、東証一部上場、従業員五百人以上の企業約二百五十社。大半が正社員だ。
では、中小企業も含めるとどうなるか。厚労省の毎月勤労統計調査では、五人以上の事業所を対象に、雇用形態に関係なく、賃金を調べている。結果、実質賃金は一二年は総額ペースで前年比0.9%減、一三年も0.9%減、一四年は2.8%減となっている。
どちらが、人々の生活実感に近いかは明白だ。
庶民とかけ離れた
大企業の役員報酬
これ以外にも、首相の景気回復論を支える数字は存在する。例えば、トヨタ自動車が一五年三月期で二兆円以上の純利益を上げ、他の上場企業も好調だ。
信用調査会社の東京商工リサーチによれば、一五年三月期決算で、上場企業で一億円以上の役員報酬を受け取ったのは二百十二社の四百十三人だった。
前年同期から二十一社、五十二人増え、開示が義務付けられた一〇年三月期以降で最多に。総額は約八百二十億円。前年同期比で約百五十億円増となった。
個別の報酬額を見ると、オリックスの宮内義彦氏が五十四億七千万円、三共の毒島(ぶすじま)秀行氏が二十一億七千六百万円。いずれも前年比を上回っており、創造しがたい景気のよさだ。
貧困の裾野広がる
失業率ダウンは
非正規増えたから
では、この恩恵は国民全体に広まっているのか。
総務省の労働力調査によると、完全失業率は一二年に4.3%だったのが、一五年十一月は3.3%と低下傾向にある。これも首相の自慢の根拠だ。
しかし、非正規労働者の数は一二年の千八百十三万人に対し、最新の一五年十一月の速報値では二千十万人と、二百万人近くも増えた。正社員は三千三百四十万人から四十万人減の三千三百万人。つまり「雇用の質」は低下している。
ちなみに正社員と非正規社員の収入差は、厚労省の「賃金構造基本統計調査」(一四年)によると、二十~二四歳では正社員が月二十万二千四百円で、非正
規は十七万百円。五十~五十四歳では、正社員の三十九万八千七百円に対し、非正規が十九万七千円と二倍にまで広かっている。
首相は全国の有効求人倍率が一二年の政権発足時には〇・八三倍だったのに対し、昨年十一月で一・二五倍に上がり、高知県などでは過去最高となったことも誇った。だが、高知県の場合、実態は若者が大都市圈に流出し、分母となる求職者が減ったにすぎない。
多数派の市民たちが好景気を実感できないのは、総務省の家計調査からも明らかだ。一世帯当たりの月平均の消費支出は、消費増税などの影響で多少の増減はあるものの、アベノミクス前後でほとんど変わっていない。
むしろ、深刻の度を増しているのは貧困だ。日銀が事務局を務める金融広報中央委員会の調査では、貯蓄ゼロ世帯の割合は一二年が26.0%だったのに対し、一五年は30.9%へと増加している。生活保護受給世帯数も、一二年の月平均が約百五十五万八千世帯なのに対し、一五年十月には過去最高の約百六十三万二千世帯に増えた。
ごく一部の富める者だけが富み、貧困の裾野が広がっている。中間層が溶解し、格差が拡大している実相が浮かび上がる。
民主党時代より
GDP伸び率下降
成長率の扱いについても疑問が浮かぶ。首相官邸のホームページにある「やわらか成長戦略」では、経済指標改善の具体例として、一二年の安倍政権発足時からの実質の国内総生産(GDP)の伸び率2.4%を挙げる。だが、内閣府経済社会総合研究所による民主党政権時の○九年七~九月期から一二年十~十二月期までの実質GDPの伸び率は5.7%し現政権の伸び率が、東日本大震災をまたぐ民主党政権時代の実績に及ばないことが分かる。
「暮らしと経済研究室」を主宰する経済評論家の山家悠紀夫氏は「安倍政権は二年前から毎月、『景気は緩やかに回復』と繰り返している。本当なら劇的に経済は良くなったはずだが、実際は違う」と語る。
大企業の景況も、株価向上や原油安によるコスト削減などのおかげて「日本企業の競争力が付いたとは言えない」と分析する。
政権の持論である大企業の回復が中小企業にも反映し、従業員にも配分されるという「トリクルダウン」説は信じられるのか。山家氏は「一握りの富裕層の消費には限界がある。一経済を良くするには、貧しい人々の所得を向上させ、消費を喚起するという道筋しかない」と否定する。
竹中元経財相「トリクルダウンない」
実際、この理論を推進してきた元経済財政担当相でパソナ会長の竹中平蔵氏は今年の元日、テレビの討論番組で「トリクルダウンはない」と発言した。
山家氏は「首相は都合の良い数字ばかり並べるが、客観的に実態を把握すべきだ。数字や論点のすり替えからは、プラスとなる議論は生まれない」と話した。
大竹まこと×室井佑月:日本が貧困大国である根拠
https://youtu.be/7vYg7C6LLEA
三者の因果関係は明らかであろう。
すなわち、98年から雇用者報酬が減少傾向に転じた、つれて家計部門の支出(消費、住宅建設)が80%強を占める民間需要が減少し始めた、結果としてGDPも減少に転じた(日本経済の長期停滞)ということである。
このように現状を把握すると、日本経済を長期停滞から脱出させる道も自ら明らかになる。雇用者報酬の引き上げを図ること、それである。
主要税目の税収(一般会計分)の推移
国民の懐からお金を掠め取り、高所得者・大企業に減税《゚Д゚》
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ぐんじ と ひんこん アベちゃんのもくろみ…(´ε`;)
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