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たたかう姿地域に示し
連帯広げ悪政止めよう
2016年 政治展望
上智大学教授 中野晃一さん
(全国商工新聞)2016年1月11日
違憲立法の安保関連法(戦争法)を昨年9月に強行成立させた安倍政権。戦争法を廃止させ安倍政権を打ち倒す展望と鍵はどこにあるのか。立憲デモクラシーの会の呼び掛け人の一人で、上智大学の中野晃一教授(政治学)に聞きました。
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戦後70年の2015年は、安倍暴走政権に対して市民社会が目覚め、新しいうねりを起こした1年でした。
議会制民主主義、代表制民主主義の下で、われわれの代理人にすぎない自民、公明など与党議員は守るべき憲法や公約を踏みにじる暴挙を繰り返しました。私たち主権者はこうした時、民意を無視する政治家は国会から追い出すしかありません。これが民主主義です。
特に昨年夏は国会正門前をはじめ、全国各地で多くの大びとが「立憲主義と憲法を守れ」「9条壊すな」と連日、声を上げました。SEALDs(自由と民主主義を守る学生緊急行動)が問い掛け、鼓舞した「民主主義って何だ」「これだ」に象徴されていると思います。
特に9月19日未明、戦争法の採決直後から「賛成議員を落選させよう」「野党は共闘」と国会正門を中心にコールが鳴り響きました。すると翌日には、日本共産党の志位和夫委員長が国民連合政府を提案し、これに応えました。来るべき国政選挙で、私たちの言うことを聞く国会議員を送り出すことが主権者として大事なのです。
安倍政権退陣を
7月の参院選で、すべての候補者に立憲主義を回復し、民主主義、平和主義を守る立場に立つのかどうか、はっきりさせることです。私たちの生活、尊い命、人間の尊厳を守る、負けられないたたかいです。安倍政権を退陣させ、個人の尊厳を守る政治の実現へ頑張りましょう。
安倍政権は通常国会を4日から開始しました。経済政策を前面に、「新三本の矢」など目くらまし作戦で参院選挙に撓み、その先には安倍首相念願の憲法明文改正をにらんだ動きが出てきます。
得票率と獲得議席数に著しいかい雕を生み、民意をゆがめる小選挙区制度の下で、安倍政権が偽りの多数を占めることになれば、独裁的な権力行使で歴史修正主義の流れも先鋭化した形で出てくることが予想されます。
戦争法は3月までに施行されますパリ同時多発テロ事件を機に「対テロ戦争」への協力で今後、早い夕イミングで発動する可能性が出てきています。市民社会がテロ対策で浮き足立っている時、ショックドクトリン(惨事便乗型政策)のようなやり方は許されません。
人間の尊厳守る
安倍政権は違憲の戦争法の論議を先行する一方で、環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意や労働法制の改悪、原発再稼働や辺野古新基地建設強行など火事場泥棒的に次々と悪政を進めました。昨年のように畳み掛けて、市民社会が対応できないように、批判する感覚が鈍る形で攻勢を強めてくると思います。
政官財の特権階級が太平洋を越えて米国の政官財のエリートたちと結託して市民社会を押さえ込み、安全保障政策や経済政策での対米追随がさらに強化されています。
その核心は持続可能な経済ではなく、新自由主義改革によって格差を広げ収奪的なやり方で「今さえ利益が上がればいい」ということです。
こうした政治的反自由主義と新自由主義が結合してグローバルな少数派支配が世界中に拡散する中、対抗するわれわれの旗印は何か。やはり「個人の尊厳」「人間の尊厳」を守るたたかいだと思います。今、各地で講演すると、従来の保守層、地域産業の名士と言われる方々が安倍政権に対して「自分が思ってきた保守ではない」と指摘することが増えています。
アベノミクスに対する期待、トリクルダウンは幻想だと気付き、地方経済が疲弊する中で「今の永田町は自分たちの方を全然見ていない」と語っているのです。
そうした従来、保守と呼ばれる方たちとも結びつき、地域につながる「抵抗の拠点」と「場づくり」を進めるために、中小企業や小規模零細事業者の果たす役割はとても大きいのです。地域や業界、町内会や商店街など、さまざまなつながりを持っています。自分の頭で考えて創意工夫の中で自分のできる抵抗を続けていく。その姿を見て「自分だけではない」と勇気をもらう人がまた出てくる。今後の運動を支えていく鍵だと思います。英語ではスピリットといいますが、「人間としての気概」を地域の皆さんに見せることがとても勇気づけることになります。
戦争法廃止必ず
「戦争させない9条壊すな!総がかり行動」が提起した2000万人署名を進めることも、戦争法を廃止したいと願う市民の気持ちをくみ取り、他者性を認め合い担い手を増やして可視化する大きな力になります。署名運動の広がりは野党の中で頑張っている政党を勇気づけ、暴走する安倍政権をけん制する働きも持つのです。
私は昨年の国会前行動で、地方で、いろいろな運動や人びとの心意気を目の当たりにして幾度も感動してきました。学生や「安保法案関連法案に反対するママの会」「安全保障関連法案に反対する学者の会」、日本弁護士連合会や憲法学者など、市民社会の各界・各層から「立憲主義と民主主義、平和主義を守れ」と声が上がり、路上に出て暴走を食い止める大きな運動が湧き起こり今も続いています。
もう一つは、世界の人びととの連帯、連携です。グローバル企業とその利益を擁護する勢力が軍事や原発、TPPなど、世界の人びとの個人の尊厳と暮らしを踏みにじり、うそとまやかしで屈服を強いています。しかしアメリカでもフランスでもイギリスでも多くの市民がたたかいに立ち上がっています。私たちも連帯して流れを食い止めなければいけません。個々人の尊厳と平和主義を、国際的な連帯の中で模索していく時です。
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弾圧はね返す力
だが、さらに1週間後に7万人に膨らむと、警官は手出しを控えた。その1週間後は12万人に達し、警官は交通整理に追われるだけだった。ライプチヒの当時の人口は60万人だ。有権者の15%が街頭に出ると当局は弾圧をあきらめた。住民すべてが反乱を起こしたように見えたのだ。
ここから状況は急速に変化し、動かなかった市民もデモに参加するようになった。翌11月に入ると、デモは50万人に膨らんだ。その3日後にベルリンの壁は崩壊した。
私か15%の法則に気付いたのが南米のチリだ。1988年の国民投票で軍事政権から民主化した後は、政権が左派になったり右派になったり極端にぷれた。なぜかと思って過去のチリの選挙を分析して気付いたことがある。この国の有権者の3割は右派、3割は左派、残る4割が中間派なのだ。中間派を引き寄せた方が選挙で7割を占めて勝利する。思えば当然だ。
中間派に影響力を及ぼすのは、結束してエネルギーを持ったときだ。3割が結束するのは半分の15%が目立つ行動に出たときだ。
略
今、日本でも戦争法案の際に10万人を超す人々が国会を包囲した。デモは日本のどこかで毎日、起きている。若者が自ら組織して人々に参加を呼び掛けるようになった。
どうしようと考えるまでもない。もはや動きは始まっている。まずは15%の1人になろう。
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Abe Dégage!
安倍政権を倒し 平和と民主主義取り戻そう
たたかい続けることが大切
(全国商工新聞)2016年1月11日
戦争法の強行可決、原発再稼働、大企業優遇のアベノミクス、辺野古新基地建設…2015年は安倍政権の暴走が極立つ一方、憲法や民主主義を踏みにじる暴挙に対し学生、若者、ママたちなど新しい層が立ち上がったのが大きな特徴でした。「アベ政治」をどう捉え、国民・中小業者はそれにどう立ち向かうのか。初対面の小林節・慶応大学名誉教授、浜矩子・同志社大学大学院教授、藤川隆広・全国商工団体連合会(全商連)副会長の3人が、縦横に語り合いました。司会は中山眞全国商工新聞編集長。
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暴走政治の正体
国民が見抜いて
中山:安倍内閣の暴走とそれに対峙する新しい運動、潮流の広がりをどう捉えていますか。
小林:僕は一昨年、大学を定年退職しました。弁護士や憲法学者はこの数年、安倍内閣の憲法破壊活動とずっとたたかってきましたが、ほとんど無視されてきました。われわれが政治に熱くなっても、学生や若い人たちには何も伝わらない。「そろそろ潮時」なんて思っていたら、いつのまにか「SEALDs」や「ママの会」「レッドアクション」などの団体・集団が自然発生的に生まれた。
これまで政治に対して批判的で、距離を置いていた人たちですよ。「若者に期待できる」と、僕自身の考えも変わりました。
藤川:小林先生は、国会の憲法審査会(15年6月4日)で、自民党推薦の長谷部恭男・早稲田大学法学学術院教授などとともに、全員が「戦争法案は違憲だ」と断言されました。あれで国民の世論というか、潮目が変わりましたね。
小林:今では飛行機に乗ったら、隣に座った老夫婦が「ご苦労さまです」と言ってくれる。エレベーターに乗ったら、乗り合わせたおばあちゃんが「小林先生を生で見るのは初めて。ぜひぜひ、あの安倍をやっつけてください」と激励してくれる。見ず知らずの人に声をかけられるのは”異常”なことですが、それが普通になってきた。巨視的に振り返ると、これが1年間の大きな変化だと思います。
浜力:強い民主主義が今、本格的に目覚めていると、私も実感しています。完全に安倍政権は、寝た子を起こしてしまった。「ざまあみろ」と思っていますが、それがきちんと分からない。そこに安倍首相の”ボクちゃん”の幼児性がにじみ出ていると思いますね。
藤川:暴走する安倍内閣を国民が追い詰めてきたわけですね。
浜:そうです。追い詰められて、焦れば焦るほど暴挙に及ぶ。そうすると、はっきりと正体が見えてきます。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言いますが、安倍内閣の正体は、外交も安全保障政策も、経済政策も、これほどまでにと思うほど大日本帝国に立ち戻りたいと考えている。それが非常によく分かってきました。
それに立ち向かう市民たちの民主主義パワーは本当に心強い。なおかつ、非常に多様な人たちが関わっている。ですから本物の民主主義的怒りを引き起こしたということで、未来から振り返って見てみると、歴史的に画期的な年ということになると思います。同時に寝た子を起こす体質を持っている集団のおぞましさも、また稀に見るすさまじさがあります。それをとことん「やっつけ倒す」まで、この勢いを続けていくことが大事ですね。
藤川:私たち業者は理屈よりも「なんかおかしいな」と肌で感じることが多いですね。前回総選挙の時は経済の話ばっかりして、戦争法の話は一切なかった。戦争法が通れば今度は「第2のアベノミクス」と言う。ずるいやり方です。
戦争法反対集会では若い人のパワーを見せつけられてびっくりでした。最後は創価学会の大たちも出てきてアピールする。大事なのは浜先生も話されましたが、「最後までやっつけ倒す」ことですね。
小林:昨年の夏、大学の先輩に当たる有名人から「自然発生的に生まれたエネルギーをつなぐ力があったらいい」とネットワークづくりの仕事を”押し付けられ”ました。「あなたはいろいろな大と関わりがあるから」と言われて…。
藤川:うまくいったわけですか。
小林:忙しくなって放り出したままですが形はできました。ただつなぐという点で、私か注目しているのは共産党が提案した「国民連合政府」構想です。
政党や政治家はそれぞれの立場で議論がありますが、最終的にまとまっていかないと、この国が危ない。だから、そこに追い込むような老若男女、無党派などのネットワークづくりが大切です。
今日は浜先生に初めてお会いしたわけですが、おかけで僕も元気をもらいました。そうした連帯がいろいろな所に生まれています。
浜:おぞましい側の方もしっかり見据えなければいけません。安倍政権は、民主主義と無縁の感受性で動いている集団です。国会に対しても不遜な感受性しかもっていない。TPPという大きなテーマで「大筋合意」ということが出てきたにもかかわらず、説明の機会を設けよと言われて、それをはねつけた。内閣改造を行っても、臨時国会を開かない。所信表明も行わないということです。
かたや、選挙に勝って多数を占めたから何でもできるという姿勢で、どんどん進めていく。民主主義の本質が何なのか。民が主役なのだ、ということが感性として分かることができない集団を相手にしていることをわれわれは忘れてはいけないし、そこを断じて許してはいけない。その点をあらためて確認する必要がありますね。
藤川:自民党は本当におかしくなっていますね。小林先生は、自民党との関係が長かったと聞いていますが…。
小林:もう30年くらいになります。彼らを教育するつもりで付き合ってきたわけですが、数年前に「来なくていい」と、向こうから言われました。
彼らは意見が合うと、私は教授ですから「先生」ですが、合わないと「あんたね、政治は現実なんだよ、あんた分かってないんだよ」です。若造の代議士が途端に「先生」から「あんた」とヤクザ言葉になる。なぜかと考えると、世襲貴族だからです。
そういう人たちがいつの間にか自民党の過半数になった。彼らの感性は、自分たちは貴族で、あとは下郎と思っているわけです。
臨時国会の件にしても、彼らは平然と法制局の役人を使って、”憲法上は臨時国会を召集しなければいけないと書いてあるけれど、期日は書いていないじやないか”と言い放つ。レベルの低い詭弁(きべん)です。召集しろと書いている以上は、当然期日は合理的に考えろ、ということです。それを、期日が書いていないから召集しなくていいと考える。傲慢を超えた感覚です。
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藤川:政治のレベルが劣化しているわけですね。
小林:議会制民主主義が分かっていない。選挙というのは、議論する人々を選んだだけであって、選ばれたら何をしてもいいというわけではない。選挙の後、議員たちが集まって、政策課題について与野党で議論して妥協調整して何かを決めていくのが議会です。選挙で多数派を占めた方が何をしてもよいということになったら議会は要らない。
選挙の洗礼を受けたというのではなく、独裁者として選任されたと思い込んでいるところが頭の悪さです。独裁政治が続いている”北朝鮮状態”ですよ。
浜:ファシストたちは何か好きかというと、「力と強さと大きさ」です。ファシスト体制に共通する一つの志向性があって、それは巨大建造物が好き、ということですね。北朝鮮ももちろんそうですし、日本のオリンピックスタジアムもそうです。
今まで世界の誰も造ったことのないようなオリンピック競技場を、ボクちゃんはやりたいと言ったじゃないですか。あれは並型的なファシスト的願望の表れではないか。GDPを600兆円にするという「第2のアベノミクス」もそうです。
独裁者の体質は
新基地建設にも
中山:ファシスト的体質は沖縄の辺野古米軍基地建設問題にも表れています。国防や外交は国の問題。県は囗を挟む資格はない、と主張しています。
小林:確かに県知事は国防や外交に関する権限はありません。日米安保条約が日本にとって必要かどうかは、今のところ国民の多数派は必要です、と認めています。しかし、憲法95条「地方特別法」には、国が法律をもって特別の地方自治体に負担を強いる場合には、住民の投票、すなわち拒否権があると書かれています。「過剰な負担を強いる場合には拒否権がある」というのは、憲法の趣旨ですから、これは地方自治の本質の一つです。
日米安保が大事だとしても、米軍専用施設の約74%を沖縄という小さな地方自治体に押し付けていること、それ自体が地方自治にもとることです。それを木で鼻をくくったみたいに、外交・防衛は地方自治体の権限ではないというのは失礼な話です。
浜:外交・安全保障は国のマター(問題)で、自治体のマターではないから国が勝手にやっていいんだ、という発想に根源的な問題があります。外交・安全保障政策が国のマターであると判断するのは、実は地域の住民だというのが民主主義の基本です。
「権限委譲」という概念がありますが、それはすべての民主主義的判断は市民に最も近いところで下される。これが民主主義の基本で、ものの考え方、自治のあり方は、そこから出発しているといわれています。
中央から地方に権限を移し渡すのが権限委譲だと考えられるようになっていますか、本来は、地方から中央へ、地域から中央へ、権限を委託する、委任するというものです。あくまでも主役は市民です。あたかも外交・安全保障政策は国の専売特許で、「お前らがとやかく言う筋合いのものではない」というような態度は、実は権限委譲という概念について、完全に発想が逆立ちしているといえます。
小林:お話を聞いて、憲法学者としてドキツとしました。僕はアメリカで学びましたから、個人が先で、その次に自治体、それで連邦をつくった。最初は13州だったけれど、その州がばらばらに外交をすると危なくてできない。そのために連邦政府をつくったわけです。
ですから、アメリカの憲法講座だと、主権者は国民、その次は自治体、州です。そこから憲法で明文で委任したものだけが連邦の権限です、ということなんです。フランスもそうだと習いました。
ところが、日本は大日本帝国憲法の伝統が残っていて、ひとつのユニット(組織)として国があって、国民は選挙で議員を選んで委託して、国から地方自治体に権限が再配分される - という考えです。これは思えば異常なことです。
やはり話し合ってみることはいいことですね。66歳の自称”出来上がった憲法学者”ですが、浜先生の話はすごく新鮮です。
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藤川:戦争法案のときも、集団的自衛権の解釈を「合理化」するために、砂川事件の最高裁判決を持ち出してきました。読んでみると、米軍の存在を認めただけであって、政府が言っているような「集団的自衛権は合憲」というようなことはどこにも書いていない。ところが、自民党副総裁で弁護士の高村正彦さんは、最高裁判決では集団的自衛権を認めていると言いきっています。これも「上から目線」ですが、自民党内部から批判は起きないのでしょうか。
小林:あれは政治家、政治屋が言っているわけです。目的が先にあって、「俺がそう言っているんだ。文句あるか」という世界です。
自民党の内部から声が上がらないのは、先ほども指摘しましたが世襲貴族が自民党国会議員の過半数になっていることが一つ。それと、ある自民党の現役の代議士が電話で「安倍政治なんか何も国の役に立つていない」と言いながら、党内で声を上げられない。次の選挙で推薦されなくなるからです。
自民党内で内乱は起きません。やっぱり外からわれわれが倒してやらないと。彼らは議員になることが目的です。筋を通すことが目的だったら、議席を失ってもたたかうでしょう。
アベノミクスは
「富国強兵」政策
中山:安倍政権の安保政策と一体となった経済政策について話を移しますが、浜先生はどうお考えですか。
浜:これはもう当初から国強兵路線です。私はアベミクスを”アホノミクス”と名付けましたが、そのアホノミクスで「富国」、憲法改正で「強兵」だったのが、今回は安保法制で強兵、ということが明らかになってきました。
いみじくも「新三本の矢」で出してきたGDP600兆円、これぞまさに安保と経済が一体ということを示しています。先ほど藤川さんが、安保を隠して経済を語り、安保を前面に出し、そしてまた安保を引っ込めて経済を語る、という流れの「けしからなさ」を指摘されました。流れはその通りですが、実を言えば、安保で一貫しています。
藤川:くるくる変わっているのではなく、安保で一貫しているわけですか。
浜:それがはっきり分かったのが、昨年4月の安倍首相の訪米です。安倍首相は、米議会の上下両院で演説を行った後、笹川平和財団のアメリカ支部でスピーチをしました。そこで彼は何と言ったか。「アベノミクスと私の外交・安全保障政策は表裏一体でございます」と明言しました。
さらに質疑応答では「日本経済をデフレから脱却させ、経済を成長させることができるようになり、GDPを増やすことができれば、当然ながらしっかりと国防費も増やすことができることになります。このような意味合いにおいて、この経済を立て直すことは、しっかりした外交・安全保障政策を立て直すために必要不可欠な要因なのであります」と語っています。
その同じ人の口から、「GDPを600兆円に増やす」という話が出てきている。GDPを現状から2割も増やすことができれば、相当に思い切って軍備も増強できます。GDP600兆円がなぜここで降って湧いたように出てきたか。アホノミクスと外交・安全保障政策とは表裏一体だということです。
小林:「これからは経済優先」などと安倍首相は言っていますが、それにだまされてはいけない。
浜:そうです。表裏一体論を踏まえて考えると、「これからは経済最優先で参ります」ということは、「安保最優先でいくこと」ということです。
ですから多少であっても、アホノミクスの「これだけはいいんじやないの」ということを断じて言ってはいけない。下心が軍備増強なわけですから、それこそつまみ食い的に評価するのは意味がない。強い日本をつくるために大きいGDPを実現しよう、という発想です。
中山 「一億総活躍社会」もそういう発想に立っているわけですか。
浜:国民一人ひとり挙げて奮励努力せよ。そのために「産めよ、殖やせよ」ということも
第2のアホノミクスにちゃんと書いてあります。耳当たりのいい言葉のように聞こえるけれど、その背後にある魂胆は、実におぞましいものです。
「生産性大革命」という言葉もあります。ガンガン生産性を上げて、効率を上げて高齢者も含めてみんなでそれに向かって働くというような大号令、つまり大本営発表がアホノミクス第ニステージであると考えないといけません。どうせできっこないとか、内容空疎とか、具体性なし、ということで}蹴してしまってはいけない危険な中身を持っています。
小林:相手は本気ですね。リップサービスかと思ったけれど、怖くなってきますね。
浜:大日本帝国をめざす安全保障政策の、いわば奴隷として経済政策をこき使うということです。
2014年版の日本再興戦略、これは毎年アップデートバージョンが出てきますが、14年版では「日本の稼ぐ力を取り戻す」というテーマが、中軸的なテーマとして打ち出されています。商売は稼がなければいけないわけですが、「日本の稼ぐ力を取り戻す」という言い方がなんとも身もふたもなく、がっついている感じにおぞましさを覚えます。
「稼ぐ力を強化できるような方向で、ガバナンス(企業統治)を改革しよう」と、企業統治を語りながら企業の社会的責任は一言も語っていない。
そこを完全に断ち切って、効率的に稼ぐための企業統治のあり方-例えば社外取締役のあり方をどうするかとかを「とば口」にして、軍産複合体の方向に向かって産業界を引っ張り込んでいくということを考えているのだろうと思います。
藤川:安倍首相はトリクルダウンといって、大企業がもうかれば、そのうち中小にも水が滴るように恩恵にあずかれると言っていますが、実はそれさえ考えていないと。
浜:全然考えていないと思います。トリクルダウンなんかしなくていい、上でどんどん回ればいい、そして下ではなく、横にガンガン回っていけばいい、ということだと思います。
そもそもトリクルダウンを求める発想には「下々」という目線があるわけで、これがそもそもけしからんことです。
藤川:浜先生は経済活動、企業の活動をどのように考えていらっしやいますか。
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浜:人々の購買力は経済を活性化させるために強化させる必要があるのではありません。人々がまっとうな、生存権がちゃんと保障される生き方ができるようにするために、購買力がないといけない。企業経済活動は人間による人間のための活動、したがって、人間を幸せにしなければ経済活動はその名に値しません。
そのような経済活動の軸にいる、財界または大企業の経営者たちが「強兵のための富国ではない、人々のための富国でしょう」ということを、こういう体質をもっている政府に対して言わないということが非常に怖い、と思いますね。
藤川:私は経営者であると同時に、ある意味、労働者でもあって、いまも現場に出ています。なおかつ、お金の心配を毎月しなから、従業員の生活をみていくとか、そういったところを原点にして、ずっとやっています。民商の中で学んだことは業者もお客も世間も喜ぶ「三方良し」です。自分だけがもうけたって、何にもならないんだというふうに教えてもらいました。
もちろん設備投資をするための内部留保は必要ですが、日本の大企業は300兆円もため込んでいる。国民から消費税として吸い上げた額とほぼ同じ額を法人税減税によって、大企業を支援し、それが内部留保につながっていく。これはおかしいと思いますね。
浜:本当にそのとおりです。ところが、今の安倍政権下で行われているのは、「三方良し」の「世間良し」の部分はどうでもいいという発想で、産業界にアプローチしている。だからトリクルダウンなんかしなくていい、世間はどうでもいいんだ、というのは同じことだと言っていいと思います。
どっちか売り手で、どっちか買い手になるかは、その時々によって、政府と産業界の立場が変わりますが、いずれにせよこの両者が、俗に言う「WIN-WIN(ウィンーウィン)の関係」になりさえすれば、世間はどうなってもいい、という感じで産業界を取り込んでいるのが、アホノミクスの側面でもあります。
そして、でもウィンーウィンだけでなく、ちょっと世間も……と感じる経営者には、いやこれはトリクルダウンですよ、という調子で丸め込むのでしょう。
安倍打倒の鍵は
「怒り」と「陰謀」
中山:アホノミクスと外交・安全保障政策との表裏一体論が進む中で、アベ政治を終わらせ、「立憲主義・民主主義・平和主義」を取り戻すために、私たちに求められる課題は何でしょうか。
小林:簡単に言うと、もう政権交代しかない。先の総選挙の時だって、与党側の票は4割を超えただけでした。それに対して、野党側の票は足せば5割に近かった。今の野党が連立すれば、先の総選挙の時にはなかった「安倍ちゃん気持ち悪い」という新しい空気が確実に出てくるでしょう。野党5党が完全に選挙協力をすれば、5割の票で8割の議席を取ることは可能です。
国民連合政府構想に対して、「野合」だと自公両党が批判していますが、憲法観が違っても権力のために連立しているのが自公です。これこそ立派な野合です。われわれは憲法観が違わないで、安倍さんによって壊された憲法を取り戻す、少なくとも議会制民主主義を取り戻す、少なくとも主権者は国民だということを忘れたヤツらを追い出して国民が権力を取り戻す、このために連立する。これは正当性の高い大義だと思います。
藤川:私たちの業者運動も、憲法を武器にしなければ、たたかいになりません。昨年末の大阪のダブル選挙は残念ながら及びませんでしたが、橋下維新政治を許さないという一点で、自民党候補を自主的に支援したことは大きな意義があったと思います。
全商連は今年、大阪で総会を開催します。そのためにも、地域の業者が声を上げ、経済をなんとかしろ、消費税を上げるな。富国強兵の道を歩んではいけない、とその力を高めていきたいと思います。
浜:「立憲主義を取り戻し、安倍政治を終わらせるため」に、私はキーワードが二つあるのではないかと考えています。一つが「怒り」、もうひとつが「陰謀」です。怒りをもって陰謀を練り続ける、ということが何にも負けることのないエネルギーと知恵をもたらすと思います。この安倍政権の行状に対する強く激しい大人の怒りをずっと抱きつつ、希望のための陰謀、平和のための陰謀を練り続ける、これだと思います。
陰謀を企むことほど人間楽しいことはない。同志的な気持ちも高まります。飲んだくれながら陰謀をたくらむときほど、アドレナリンもガンガン出て、知恵も出てきます。
小林:私は飲んべえですが、浜さんは?
浜:「多品種大量飲酒」を趣味としています。
中山:機会を設けて大いに飲みながら、「大人の怒りと明るい陰謀の会」を、ぜひ開きたいと思います。今日はありがとうございました。
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小林節慶応大学名誉教授&浜矩子同志社大学教授:安倍政権を倒し平和と民主主義取り戻そう
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