GDP0・6%増
この数字で「対応は正しかった」とは恐れ入る
(日刊ゲンダイ)2015年2月18日
いよいよ出口なしの袋小路に追い詰められてきたアベノミクスというペテン
個人消費の回復が遅いのではなく、庶民の金を大企業に所得移転させる世紀の愚策が案の定、どんどん日本経済をヘタらせている
「この数字で『政府の対応は良かった』とは、よくぞ言えたものです。この先の日本経済も上がり目があるとは言えない状況なのに、政府の危機認識はその程度なのか、と不安になりますよ」
そう切り捨てたのは、経済アナリストの菊池英博氏だ。怒りの矛先は、きのう(16日)の菅官房長官の発言である。この日発表された14年10‐12月期のGDP速報値は前期比〇・6%増、年率換算で2・2%増となった。プラスに転じたのは3四半期ぶりで、消費増税後は初めて。それで気を良くしたのかは知らないが、菅は定例会見でこう言ってのけた。
「少なくとも(GDPが)プラスになってきたので、(消費税10%の先送りなど)政府の対応は良かったと思っている」
甘利経済再生相は、菅以上に楽観的で「消費マインドもかなり上がってきている」と言っていたが、GDPのおよそ6割を占める個人消費は前期比○・3%増にとどまる。消費マインドは依然、冷え込んだままだ。
「増税直後の昨年4-6月期のGDPは年率換算6・7%ものマイナス。7-9月期もマイナス2・3%でした。政府はこの凄まじい下げ幅に比べ、たった2・2%しか回復しなかったことを問題視すべきです。消費税アップに伴う駆け込み需要の反動減は和らぎ、例年なら10-12月期は個人消費が伸びて当然。冬のボーナスが支給され、クリスマス・年末商戦や忘年会シーズンとサイフの紐が緩みますからね。それでも個人消費は凍り付き、実質GDPは市場予想平均の3・8%増を大きく下回った。このことは何を意味するのか。やはりアベノミクスは大失敗、特に異次元緩和が世紀の愚策であることを物語っています」(菊池英博氏に前出)
菅はきのうの会見で「個人消費の『戻り』が若干遅いのかなという思いがある」と語っていたが、この発想自体、根本から間違っているのだ。アベノミクスというペテン政策が日本経済をヘタらせた結果、個人消費の冷え込みは取り返しのつかないレベルに連している。世紀の愚策を改めない限り、消費マインドは戻りっこないのである。
国民を人為的に貧しくさせた自覚はあるのか
異次元緩和の根本的な過ちは、約30年前に「新古典派」と呼ばれた米国の経済学者らが提唱し、「非現実的だ」として葬り去られた学説(=合理的期待形成仮説)に依拠していることだ。すでに多くの経済専門家がそう指摘している。
なぜ、黒田日銀は今なお物価上昇率にこだわるのか。消費者に「将来インフレになるぞ」と呼び掛ければ「今の方が得だ」と判断して商品を買い求める。需要が喚起され、設備投資を促し、経済成長につながる-。そんな甘い期待にすがりついているのだ。
「この考え方こそ『合理的期待形成仮説』の典型なのですが、この2年余りの異次元緩和という”荘大な実験”で再び学説の過ちが実証された格好です。日銀の期待通りに勳いたのは一握りの富裕層のみ。普通の庶民は将来のインフレに備え、貯蓄を増やそうと買い控えをするのです。だから消費は伸びず、『好循環』をもたらすどころか、円安に伴う輸入インフレという”魔物”を生み出した。増税とのダブルパンチで、実質賃金は18ヵ月連続のマイナスとなり、消費者はますます買い控えに走る。アベノミクスの2年間で、日本経済は出口なしの悪循環に陥ったのです」(経済評論家・斎藤満氏)
昨年1年間の実質賃金は2・5%減。下げ幅はリーマン・ショツクの影響で過去最大となった09年(2・6%減)に匹敵する。安倍首相は何度も「民主党政権では経済が衰退した」と言い続けてきたか、今回のGDPを金額ペースで見ると、個人消費は年率換算で約308兆円。この数値は安倍政権が誕生する直前、12年7-9月期よりも低い水準である。
日本が世界規模の不況に巻き込まれたのなら、いざ知らずだ。今の所得減少と消費低迷はアベノミクスの”人災”が招いたもので、2年に及ぶ経済失政は明らか。安倍首相には自身の経済政策で、庶民の暮らしを人為的に貧しくしている自覚はあるのだろうか。
庶民の犠牲の上に成り立つ過去最高益26兆円
アベノミクスは土台から腐り切っているのに、いまだに大マスコミは楽観ムードを振りまいている。14日の朝日新聞は1面トップで、「上場企業、最高益26兆円」とデカデカと報じていた。
記事によると、自動車や電機を中心に輸出大企業は円安の恩恵をたっぶり享受して海外での稼ぎが膨張。トヨタの今期の営業利益は昨年11月時点の予想より2000億円も増加し、うち円安の寄与分は1750億円にも上るそうだが、記事には「庶民の犠牲」への視点が欠けている。前出の斎藤満氏はこう言った。
「この2年の円安政策で、この国の経済力を示すGDPの規模は確実に減った。円安の悪影響によって庶民の実質所得はガタ減りし、雇用の7割を支える中小・零細企業は原材料コストを価格転嫁できず、青息吐息です。それでも大企業さえ儲かればいいのですか。上場企業の株主への配当額も過去最高を更新するそうですが、日本で株を保有する国民は全体の12%だけです。配当の多ぐは海外ファンドに流れ、余った利益が賃上げに回るかといえば、多くは企業の内部にため込まれる。この2年で内部留保の増加額は約50兆円とこGDPの1割に匹敵します。というのも、製品の輸出量自体は伸びておらず、為替効果を差し引けば『空前の利益』といえども、業績判断は『安泰』と言えないためです」
結局、アベノミクスとは中小企業と個人の所得をホンの一握りの富裕簷と輸出産業に移転しただけ。大企業の空前の利益でさえ、庶民の犠牲の上に成り立った「砂上の楼閣」に過ぎない。
支離滅裂なトップは国力を減退させるだけ
どの世論調査でも、8割以上の人々が「景気回復を実感できない」と答えている。さすがに安倍も失敗を意識せざるを得ないのか、先の施政方針演説では「アベノミクス」という言葉を1回しか使わなかった。
その代わりに持ち出してきたフレーズか「戦後以来の大改革」だ。農業・医療・労働分野の規制を「岩盤規制」と勝手に位置づけ、「自分自身がドリルの刃となって突き破る」とボルテージは上がりっぱなし。施政方針演説では36回も「改革」と連呼しr異様なまでのテンションだった。
前出の斎藤満氏は「安倍政権が大仰なスローガンを掲げるのは、経済失政から国民の目をそらす常套(じょうとう)手段。数カ月前の『地方創生』や『女性の輝く社会』と同じです」と言ったか、サラリーマンの雇用ルールまで失政を糊塗する「目くらまし策」に使われたら、たまらない。来春の実施を目指す「残業代ゼロ制度」にせよ、「裁量労働制の拡大」にせよ、導入後に待っているのは日本企業の総ブラック化だ。労働者は企業の奴隷さながらにコキ使われることになってしまう。
「人件費を抑制したい大企業経営者はよろこぶでしょうが、労働者の所得が増えなければ消費は落ち込む。いずれ深刻な内需不足となって、GDPはどんどん下落します。安倍首相は一体、何を実現したいのか。企業に賃上げを迫りながら、人件費抑制の雇用改革に血道を上げる。農協改革で『農家の未来を切り開く』と言いつつ、海外からの安い農産物を増やすTPPを推進する。あまりに支離滅裂で、経済失政の袋小路にハマり、正常な判断力を失っているかのようです。そんなトップに居座られたら、国力の衰退を招くだけですよ」(菊池英博氏=前出)
日本経済にとって最大のリスクは安倍政権の継続だ。その事実に多くみ国民も早く気付くべきだろう。
日本経済2014-2015-好循環実現に向けた挑戦
(内閣府)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2015/0113nk/nk14.html
14年の実質GDP成長率0.0%
「アベノミクス」が日本経済成長止めた
消費税増税、金融緩和…庶民生活圧迫
(しんぶん赤旗)2015年2月17日
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-02-17/2015021703_01_1.html
内閣府が16日発表した2014年の国内総生産(GDP、速報値)で、14年の年間を通した実質GDP成長率は0・0%となり、経済成長が止まりました。安倍晋三政権の経済政策である「アベノミクス」が、日本の経済成長を阻害していることが改めて示されました。
安倍政権は14年4月、国民の多数の反対を押し切って、消費税率の8%への引き上げを強行しました。この消費税増税が庶民の所得を奪い続けています。日銀による金融緩和は、物価上昇をもたらし、原材料高騰を価格に転嫁できない中小企業の営業を直撃し、庶民の生活を圧迫しています。
トルコで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は共同声明で、日本を名指しし、「回復は続いているものの、緩慢だ」と警告を発していました。
14年の実質GDP成長率の内訳を見ると、金融緩和を引き金とした円安で輸出(8・2%増)は拡大したものの、個人消費はマイナス1・2%となり、全体を押し下げました。消費の落ち込みの背景には、賃金の上昇が物価の上昇に追いついていない実態があります。毎月勤労統計調査(速報)によると、14年の実質賃金指数は前年比2・5%減で、3年連続の減少。減少幅はこの3年間で最大を記録しました。同年12月単月では前年同月比1・4%減となり、18カ月連続マイナスでした。
この結果、14年の実質雇用者報酬は、前年比で1%減、金額にして約2兆6000億円減少したことになります。
内閣府の「日本経済2014~15」(ミニ経済白書)によると、消費税増税は、14年内において個人消費を1兆円弱押し下げたと推計しています。ニッセイ基礎研究所の経済研究部経済調査室長の斎藤太郎氏は、同社のホームページで、10~12月の実質GDPが前年同期比で0・5%のマイナスだったことを受け、「駆け込み需要とその反動の影響を除いて考えてもこの1年間の日本経済はマイナス成長だったということになる」と指摘。「消費税率引き上げによる悪影響は家計部門を中心に残っている」と強調しています。
今年に入ってからも、暮らし向きは悪化しています。1月の消費動向調査によると、消費者心理の明るさを示す消費者態度指数(一般世帯、季節調整値)のうち「暮らし向き」と「収入の増え方」は、それぞれ0・2ポイント低下しています。
時事通信が実施した2月の世論調査によると、「アベノミクス」の下で経済格差の拡大を「感じる」と回答した人は63%に達しています。
庶民を犠牲にして一部の富裕層や大企業に恩恵を与える「アベノミクス」を転換し、国民の所得を増やす経済改革がいよいよ求められています。
(金子豊弘)
四半期別GDP速報
2014年10-12月期・1次速報(2015年2月16日)
(内閣府)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sokuhou/sokuhou_top.html
【浜矩子】人間不在で貧困放置するアベノミクス、トリクルダウンなんて幻想以下!(大竹まこと)
http://youtu.be/pviuwS_-f2Y
行き詰まるアベノミクス
とくほう・特報(しんぶん赤旗)2015年1月30日
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-01-30/2015013003_02_0.html
安倍晋三政権の経済政策である「アベノミクス」。政権最大の“売り物”は3年目に入りました。日本経済に「好循環」をもたらすどころか、行き詰まりはいよいよ明らかです。経済政策転換の方向を探ります。
(川田博子、杉本恒如)
IMF“日本経済後退”
日本経済は2014年7~9月期に「事実上の景気後退局面に入った」。
国際通貨基金(IMF)が断定しました。今月発表した「世界経済見通し改訂版」で15~16年の世界経済の成長率予測を0・3%下方修正。要因の一つとして日本経済の後退をあげたのです。
失政は明らか
日本政府は「緩やかな回復基調が続いている」とごまかしますが、世界の視点からみればアベノミクスの失政は明らかです。
実際、15年度予算案の前提となる「経済見通し」(12日に閣議了承)で、政府は14年度の実質国内総生産(GDP)成長率がマイナス0・5%に落ち込むと見込みました。リーマン・ショック後の09年度(2・0%減)以来、5年ぶりのマイナス成長です。
「尋常の景気後退ではもはやない」と東京工科大学の工藤昌宏教授は指摘します。「賃金と個人消費が持ち上がらず、停滞から抜け出す見通しが立たない。アベノミクスは過ちを重ねて論理的に破たんし、なすすべなく立ちすくむ状況です」
認識に間違い
安倍政権の「成長戦略」(日本再興戦略)は、日本企業の「低生産性」が「日本経済全体の足を引っ張っている」と断じ、企業の「稼ぐ力」すなわち「収益性」の向上を政策の中心にすえました。
工藤さんは「この事実認識からして根本的に間違っている」と批判します。「大企業が史上最高の経常利益をあげて内部留保を増やしているのに、経済は再生しなかったのです。このうえ株価のつり上げや法人税減税で企業収益を増やしても設備投資は増えず、金融緩和を進めても実体経済にお金は流れません。それは雇用と消費が安定せず、内需が停滞しているためです」
安倍政権は雇用と消費を上向かせるどころか、消費税を増税して個人消費を冷え込ませました。内閣府の「ミニ経済白書」(13日発表)は、消費税増税による実質的な所得低下が個人消費を「1兆円弱程度押し下げている」と試算しました。
工藤さんはいいます。「一番大事なところに重しをかけ、経済の循環をぶち壊した。誤った事実認識に基づく、誤った経済再生シナリオの破たんです」
中小企業「すでに不況」
安倍政権・日銀の「異次元の金融緩和」が引き起こした円安と物価高によるコスト増が中小企業の経営に打撃を与えています。
中小企業の苦境は、政府・日銀の報告からも明らかです。
円安享受なし
内閣府が13日に発表した「ミニ経済白書」は、中小企業は円安のメリットが十分に享受できず競争力も弱いため、「原材料・エネルギーコスト上昇の価格への転嫁が困難」だと報告。
日銀が15日に発表した地域経済報告(さくらリポート)によれば、自動車や電気機械など海外需要が増加している業種、訪日外国人客関連業などは円安で収益が増加。一方、内需依存度の高い食料品、小売りや飲食等は収益が悪化しているといいます。
「中小企業はすでに“アベノミクス不況”のさなかにある」―中小企業家同友会全国協議会(中同協)は、消費税増税後の個人消費の低迷と円安の進行が中小企業の二重苦になっていると警告します。
消費税増税で
中同協の四半期ごとの景況調査では、中小企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は昨年4月の消費税増税後、連続して悪化。14年10~12月期の業況判断DIは、従業員100人以上の企業で前年同期比8・1%増、20人未満の企業で同13・5%減と、企業規模による格差も拡大しています。
13年の円安関連倒産件数は345件と前年(130件)の2・7倍に急増しました。
中小企業の実態に詳しい吉田敬一駒沢大学教授は、日本の大企業が海外進出を進め生産拠点を海外に移してきた弊害を指摘。「大企業は円安による為替差益などで大きな利益を得る一方、国内中小企業は輸入原材料の価格上昇や物価高によるコストアップで経営が圧迫されています。さらに消費税増税や物価高による国民の消費の冷え込みも経営悪化に拍車をかけています」と指摘します。
国際的にも時代遅れ
内閣府の「ミニ経済白書」は、消費税増税で低所得層がもっとも被害にあっていると分析しています。
庶民へ負担増
ところが安倍政権は、庶民への負担増の手を緩めません。
年金や生活保護の切り下げ、派遣労働の拡大、「残業代ゼロ」制度の導入などで国民の所得を引き下げつつ、介護の利用料や医療の患者負担を引き上げようとしています。
「憲法9条と25条(生存権)を同時に壊そうとしているのが安倍政権です」と批判するのは東北大学の日野秀逸名誉教授です。
「アベノミクスにはもともと社会保障や雇用の改悪が組み込まれています。大企業の負担が減って収益が上がれば中小企業や労働者にもおこぼれがしたたり落ちるという『トリクルダウン経済』の思想に立脚しているためです。しかし実際にはトリクルダウンなど起こりません。考え方がまちがっています」
経済協力開発機構(OECD)は昨年12月の報告書で「成長の恩恵は自動的に社会全体に波及(トリクルダウン)するわけではない」「所得格差の趨勢(すうせい)的な拡大は、経済成長を大幅に抑制している」と強調しました。
景気を回復させ、経済を立て直す解決策はどこにあるのでしょうか。IMFは「世界経済見通し」で、「経済活動の段階的な回復」にとって「消費税率再引き上げの延期」が効果的と指摘しました。国民負担増路線では、景気はけっして回復しないというわけです。ならば、消費税10%への増税はきっぱりと中止すべきです。
ピケティ氏も
格差拡大を批判するフランスの経済学者トマ・ピケティ氏は「(アベノミクスのやり方は)間違いだ」と発言。アベノミクスの対案として「労働所得に対して減税、資本に対して増税するのは自然な解決策だろう」(「東洋経済オンライン」26日)と提案します。
日野さんは話します。
「大企業減税と消費税増税、社会保障と労働法制の改悪で貧困と格差を広げるアベノミクスは、もはや国際的にも時代遅れの経済政策なのです。安定的な経済発展には個人消費の拡大が不可欠です」
弱者を搾る安倍政権
もっと真剣に怒ろう
作家・タレント 室井佑月さん
(全国商工新聞)2014年11月10日