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人質司法の解消を

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「人質司法」改革見送り 法制審部会 最終案
(東京新聞【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2014071002000143.html
 法制審議会の特別部会が九日に決定した刑事司法改革の最終案は、日本でタブー視されてきた司法取引に道を開く。だが、専門家はうその供述によって無実の人が犯人に仕立てられる可能性を指摘。否認している間は保釈されない「人質司法」という根本的な問題が放置されている限り、取り調べの録音・録画(可視化)でさえも厚生労働次官の村木厚子さんが巻き込まれたような冤罪(えんざい)事件を助長する要因になると警鐘を鳴らす。
(加藤益丈、中山岳)

「人質司法」改革見送り 法制審部会 最終案

司法取引 冤罪生む恐れ

 ■誘 惑

 最終案には、他人の犯罪で捜査協力した容疑者や被告に対し検察が起訴を見送ったり、検察が刑事責任を追及しないと約束して法廷で他人の犯罪を証言させたりする司法取引の導入が盛り込まれた。
 しかし、特別部会が三年前に設置される契機になったのは、村木さんが誤認逮捕された郵便不正事件。この事件では、大阪地検特捜部に逮捕された厚生労働省職員が取り調べで「上司の指示があった」とうその自白をしたことが、村木さんの逮捕につなかった。
 最終案には、司法取引で無実の人が巻き込まれることを防ぐため、うその供述を罰する「虚偽供述罪」を盛り込んだほか司法取引には容疑者らの弁護士の同意が必要と網もかけた。それで
も、村木さんのような冤罪被害者を生む危険性は増大すると指摘する声は強い。
 村木さんの弁護人を務めた弘中惇一郎弁護士は「捜査機関に迎合し、うそをついてでも自分が助かろうとする人間はいる。歯止めを作っても誘惑にかられる人は出るだろう」と話す。

 ■危 惧

 郵便不正事件では、否認を続けた村木さんが百六十四日にわたり勾留された。自白を得るため、否認すれば長期にわたって保釈しない身柄拘束は「人質司法」と批判されている。
 特別部会では、居住先の指定など条件を課す代わりに、身柄拘束をしないで捜査する「中間処分制度」を創設すべきか議論になった。しかし、警察や検察出身の委員らから「証拠隠滅の恐れが高まる」と否定的な意見が相次ぎ、見送られた。
 弘中弁護士は「捜査側に屈服するかしないかが保釈の分かれ道になる。人質司法の現状は、むしろひどくなっている」と批判。人質司法を改めないまま、司法取引など捜査手法が拡大することを危惧している。

 ■抜本策

 最終案で法制化が明記され、冤罪防止につながると期待される取り調べの録音・録画(可視化)だが、映像の使われ方によっては、危険な証拠にもなりうるという意見もある。
 カメラが回っている前では、取調官が保釈など見返りをちらつかせたり、脅したり暴力を振るったりして、自白を引き出すような取り調べはできなくなる。しかし、元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は「自分の罪を軽くしようと無実の人を首謀者にでっちあげる巧妙なうそは『映像のインパクト』で真実のようにもっともらしく聞こえる。映像を裁判員や裁判官が見れば、判断を誤る恐れがある」と指摘する。
 その上で「可視化して、強引な取り調べをできなくすれば、冤罪はなくなるという単純な話ではない。起訴内容を否認していることを理由に勾留を続けてはならないという規定を新たに設けるなどして人質司法を解消すべきだ」と強調する。




可視化なき司法取引の導入はさらなる冤罪の温床に

http://youtu.be/bxs7zJGKkhM
ニュース・コメンタリー (2014年06月28日)
可視化なき司法取引の導入はさらなる冤罪の温床に
 相次ぐ冤罪や検察不祥事を受けて刑事司法改革を議論している法制審議会の特別部会が、司法取引の導入を決定する見通しだというが、可視化や証拠の開示が不十分なまま司法取引が導入されれば、さらなる冤罪の温床となることは目に見えている。今、日本の刑事司法制度に求められる改革とは明らかに逆行する施策と言わねばならない。
 そもそもこの特別部会は、冤罪の原因となっている人質司法や取り調べの可視化、検察の証拠開示を改革することが主眼になるはずだった。ところが3年間にわたる議論の末、出てきたものは明らかに不十分な可視化策と証拠開示基準だった。現在特別部会が検討している可視化策は裁判員裁判の対象事件のみを可視化の対象とするもので、刑事事件全体の2%程度しか可視化されないことになる。
 また、証拠開示についても、証拠のリストのみを公表すればいいことしている。刑事事件を担当する弁護士たちの話では、証拠につけられた文書タイトルから証拠の中身を判断することは不可能なので、仮にリストを受け取ってもまったく証拠が開示されたことにはならないと言う。
 しかも、その一方で、特別部会は盗聴法の強化などの捜査権限の強化だけはしっかりと謳われるなど、本末転倒な報告が相次いで出されていた。
 特別部会は6月23日の会合で、更にその上に、新たな捜査権限の拡大策として、「司法取引」の導入を議論し始めたという。司法取引は事件の容疑者が捜査に協力する見返りに刑が軽減されたり起訴が見送られたりする制度だが、これが新たに捜査権限に加わることで、既に権力が集中しすぎていると批判される検察が、更に新たな武器を手にすることになる。
 司法取引には大きく分けて、(1)容疑者や被告が共犯者など他人の犯罪を解明するために協力することの見返りに、検察官が起訴を見送ることができる「協議・合意制度」、(2)自分の犯罪を認めれば刑を軽くすることができる「刑の減軽制度」、(3)事故などの原因究明のために、容疑者になり得る証人にあらかじめ免責を約束したり、証言を証人の不利益な証拠にできないとの条件を付けることができる「刑事免責制度」の3類型がある。(2)は裁判コストの削減、(3)は事故原因究明を優先するための設けられた制度だが、(1)は明らかに検察の捜査権限を強化するためのものだ。
 欧米では既に何らかの司法取引制度が導入されている国が多いが、いずれの制度も取り調べが可視化されておらず、検察の証拠開示が行われていない日本でこれが導入されれば、更に冤罪の温床と化す恐れがある。検察側が実際には存在しない証拠があるかのように被疑者を騙し、司法取引を持ちかけて自白を取り付けることが可能になるからだ。
 いずれにしても今回の特別部会の提言に沿って可視化が行われた場合、可視化の対象事件は全事件の2%強にとどまる見通しだ。つまり、可視化されていない事件で、密室の取り調べの後の司法取引が可能になるということだ。
 法制審議会の特別部会は痴漢冤罪事件を扱った映画「それでもボクはやってない」の監督の周防正行氏や証拠捏造による冤罪事件の被害者となった村木厚子厚労次官らの一部を除き、圧倒的多数を検察、警察、裁判所などの法曹関係者が占めている。例えは悪いが、泥棒に泥棒を捕まえるための制度設計を任せているのも同然だ。そのような会議から、本当の意味で刑事司法の健全化や正常化を推し進めるための手立てが提言されるはずがない。
 国連拷問禁止委員会の場で「中世」とまで揶揄されてもなお、実効性のある改革よりも権益の拡大を優先している日本の刑事司法に未来はない。そもそもこのような委員会に刑事司法改革を任せている政治の責任も重大だ。
 1989年にニューヨークで5人の黒人とヒスパニック系の少年が白人女性を強姦し重傷を負わせた所謂「セントラルパーク5」事件というものがある。当時14歳から16歳の少年だった被告全員が7年から13年の服役を終えた後の2002年、突如として真犯人が現れ、少年たちはまったくの冤罪だったことが明らかになった。その事件でこのたび彼らを訴追したニューヨーク市と元少年らの間で和解が成立し、5人で合計して40億円の賠償金が支払われることになったという。概ね1人あたり1年につき1億円の補償額となる。
 これも当時ニューヨーク市では取り調べが可視化されていなかったため、少年たちは苛酷な取り調べを受けた上に虚偽の自白を強要され、結果的に世紀の冤罪事件を作り出してしまった。しかも少年たちが自白をするシーンは繰り返しリハーサルを行った上でビデオ撮影され、それが裁判に証拠採用されている。現在の日本と同じ検察の都合のいい部分だけを録音・録画することが許される「部分可視化」の結末だ。
 それから25年経った今、日本では今なお取り調べの可視化は実現していない。冤罪で17年半も不当に刑に服した菅家利和さんの国家賠償額は8000万円あまり、同じく冤罪で34年間不当な刑に服した免田栄さんの賠償額も9000万円あまりである。自分の人生の大切な時間を国家によって不当に奪われたことは無論お金で取り返しがつくものではないが、日本では検察や警察、そして裁判所にとって冤罪を起こしてしまった場合のリスクが、アメリカと比べて遙かに小さいこともまちがいない。
 まだ遅くはない。特別部会には今からでも、どうすれば冤罪を防ぐことができるかを真剣に議論し、まずは少なくとも先進国として恥ずかしくない公正な刑事司法制度を確立してから、捜査権限の拡大や司法取引の議論をすべきだろう。
 現行制度の元で司法取引を導入することのリスクなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。



「取調べの可視化~疑問の余地はありません!」

取調べの可視化(取調べの可視化実現本部)
(日本弁護士連合会)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/recordings.html
取調べの可視化(取調べの全過程の録画)実現

現在、被疑者の取調べは「密室」で行われています

日本の刑事司法制度においては、捜査段階における被疑者の取調べは、弁護士の立会いを排除し、外部からの連絡を遮断されたいわゆる「密室」において行われています。このため、捜査官が供述者を威圧したり、利益誘導したりといった違法・不当な取調べが行われることがあります。その結果、供述者が意に反する供述を強いられたり、供述と食い違う調書が作成されたり、その精神や健康を害されるといったことが少なくありません。

「裁判の長期化」や「冤罪」の原因となっています

そのうえ、公判において、供述者が「脅されて調書に署名させられた」、「言ってもいないことを調書に書かれた」と主張しても、取調べ状況を客観的に証明する手段に乏しいため、弁護人・検察官双方の主張が不毛な水掛け論に終始することが多く、裁判の長期化や冤罪の深刻な原因となっています。

最近でも、厚労省元局長事件、足利事件、布川事件など、裁判が長期化した事例や違法・不当な取調べによる冤罪事例が多く発生しています。

取調べの全過程を録画(可視化)すべきです

取調室の中で何が行われたのかについて、はっきりした分かりやすい証拠を用意することはきわめて簡単です。取調べの最初から最後まで (取調べの全過程)を録画(可視化)しておけばよいのです。そうすれば、被告人と捜査官の言い分が違っても、録画したものを再生すれば容易に適正な判定を下すことができるでしょう。

裁判員制度成功のためにも取調べの可視化が必要です

裁判員制度が2009年5月から行われています。取調べの可視化(取調べの全過程の録画)をしないまま、裁判員となった多くの市民が、これまでと同様の不毛な水掛け論に延々と付き合うことは不可能です。取調べの全過程の録画が認められれば、取調べの様子を事後に検証することが容易になり、裁判員も判断しやすくなります。

欧米諸国だけでなく、韓国、香港、台湾などでも導入されています

今日、イギリスやアメリカのかなりの州のほか、オーストラリア、韓国、香港、台湾などでも、取調べの録画や録音を義務付ける改革が既に行われています。

また、国連の国際人権(自由権)規約委員会は、日本における被疑者取調べ制度の問題点を特に指摘して、被疑者への取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるよう勧告しています。

私たちは取調べの可視化を提言しています

私たちは、いまこそ、取調べの可視化を実現して、日本の刑事司法制度を文明国の名に恥じないものにすべきと考えます。

なお、以下に述べる検察庁や警察庁での一部録画の試行は、日弁連が求めている取調べの可視化(取調べの全過程の録画)とは、全く異なるものです。あくまで、全過程の録画が必要であり、重要なのです。

一部録画ではダメ?「全過程」の録画が必要です!

現在検察庁・警察庁が行っている一部録画は、取調官に都合のよい部分だけを録画するものであり、自白強要を防ぐことはできません。裁判官や裁判員の判断を誤らせるおそれがあり、かえって危険です。

取調べの可視化(取調べの全過程の録画)がぜひとも必要なのです。

取調の可視化(全過程の録画)の実現に向けた活動

意見書・会長声明等
これまでに日弁連がとりまとめた取調べの可視化に関する意見書、会長声明等を掲載しています。

総会決議、人権大会宣言・決議等
これまでに採択された日弁連の総会決議、人権大会宣言・決議のうち、取調べの可視化について触れられているものを掲載しています。

パンフレット、マニュアル、ツール等
これまでに作成したパンフレットや、「被疑者ノート」や「取調べの可視化申入書(モデル案)」等、役立つツールを掲載しています。

これまでに開催したイベント(シンポジウム、市民集会、研修等)
これまでに開催した取調べの可視化に関するシンポジウム、市民集会、研修等の情報を掲載しています。

各種調査
これまでに取調べの可視化に関して行った各種調査に関する情報を掲載しています。

ニュース
取調べの可視化実現本部は、年3回ニュースを発行しています。直近の活動は「取調べの可視化実現ニュース」をご参照ください。バックナンバーもご覧いただけます。



可視化置き去りで進む、司法取引の落とし穴
(東京新聞【こちら特報部】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014062602000175.html
 捜査協力の見返りに起訴を見送るといった「司法取引」制度が法制化される見通しとなった。法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会で了承の意見が多数を占めた。しかし、罪を他人になすり付ける虚偽の供述によって、新たな冤罪(えんざい)を生む恐れもあるのが、司法取引だ。冤罪防止のための取り調べの録音・録画(可視化)を目指すために設置された特別部会だったはず。議論が違う方向に向かっていないか-。
(上田千秋、荒井六貴)

可視化置き去りで進む、司法取引の落とし穴

虚偽証言増える可能性

 司法取引は、外国の映画やテレビドラマなどではよく耳にするものの、日本ではなじみが薄い。どういった仕組みなのか。
 二十三日に開かれた特別部会で、法務省は三類型を示した。柱は「協議・合意制度」で、容疑者や被告が、共犯者や他人の犯罪を解明するために供述したり証拠を出したりすれば、検察官は起訴を見送ったり取り消したりできる。遺族や被害者の感情に配慮し、殺人事件などは除き、対象を汚職や詐欺、経済事件、薬物事件などに限定する方針だ。
 二つ目は、自分の犯罪に関して捜査機関が知らない事実を供述した場合の「刑の減軽制度」だ。自首の要件を広げたもので、検察官が求刑の際、裁判官は判決の際に考慮する。
 三つ目の「刑事免責制度」は、検察官が公判に出廷を求めた証人に適用する。法廷で証言する際、証人自身が罪に問われるような部分は証拠採用をしないと条件をつけることができる。
 刑事免責制度は、戦後最大の疑獄事件とされるロッキード事件の公判で注目を集めたことがある。罪に問われることを恐れた米企業の幹部に対し、検察官が不起訴を約束し、田中角栄元首相への贈賄工作を認めさせて調書を作成した。だが、最高裁は一九九五年、日本に刑事免責制度がないことを理由に証拠として認めなかった。法制化されれば、同様のケースでは証拠採用されることになる。
 それにしても、特別部会で議論を始めたきっかけは、大阪地検特捜部が二〇〇九年、厚生労働省の村木厚子雇用均等・児童家庭局長(現次官)を逮捕した冤罪事件だったはずだ。検察官による証拠の捏造が発覚し、再発防止策を考えることがそもそもの目的だった。それなのに、最大テーマの可視化に向けた動きは先細り気味で、通信傍受や司法取引など新たな捜査手法の導入ばかりが活発に議論されている。
 可視化の義務付けは試案では、刑事裁判全体の2~3%しかない裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件にとどめている。これでは、冤罪が起きる危険性はなくならない。一方で、司法取引の導入を懸念する声は少なくない。罪を逃れようと、虚偽の供述をして共犯者や第三者に責任を負わせようとする容疑者らが出かねないからだ。
 日本弁護士連合会の刑事法制委員長を務める岩田研二郎弁護士は「他人に罪を押しつけるケースは出てくるだろう」と懸念を強める。例えば、業者から賄賂を受け取り逮捕された公務員が「上司の指示に従ったまで。上司も金をもらっている」と供述したとする。このストーリーに従い、捜査当局が無実の人を逮捕する-。荒唐無稽なようだが、無実の村木氏が逮捕されたのも、部下の職員がうその供述をしたからだ。
 岩田氏は「可視化か進まない一方で、電話やメールを傍受できる範囲を広げるなど歯止めが失われている。捜査機関側か焼け太りしていると言わざるを得ない」と訴える。

可視化置き去りで進む 新たな冤罪生む恐れ

新たな冤罪生む恐れ

罪押しつけ・無実の他人巻き込み

 ただ、特別部会の委員でもある村木氏は「密室でルールがないまま行われるより、ルール化し、録音、録画の環境の中でやったほうがよいのではないか」と、全ての取り調べの可視化と
セットでの導入を提案する。なぜかといえば、司法取引に似た捜査手法が現状でも取られているからだ。
 衷示地検特捜部が捜査した事件では、「十人を逮捕したら、二、三人を不起訴にするような割合だった」と元特捜検事の若狭勝弁護士は説明する。起訴をするかは検察官の裁量次第だ。起訴を見送ることを暗に示し、容疑者から供述を引き出すこともあったという。
 だから、「ルール化」というのが村木氏の趣旨だが、若狭氏は法制化によって必ずしも正しい方向に進むとは限らないとみる。「捜査機関が露骨に司法取引を持ち掛けられるようになれば、容疑者は今まで以上に、自分の立場を有利にするため取調官の期待に沿う供述をするようになりかねない」
 また、司法取引は捜査機関にとって良いことばかりでもないとも、若狭氏は指摘する。「虚偽の供述に引っ張られ、慢心して裏付け捜査を怠ることもあり得る。公判で、裁判官が『この供述は信用できない』と判断し、主犯として起訴した被告が無罪になる可能性もある」。つまり「もろ刃の剣」だ。
 日弁連刑事法制委員会の小笠原基也弁護士は、「司法取引は海外で幅広く導入されている」と推進側が喧伝(けんでん)することを疑問視する。特別部会で提示されたのは、欧米五力国の制度で、法務省刑事局の担当者は「主な諸外国では、三類型のうち一部は導入されている」と説明した。

「供述に頼りすぎるな」

 しかし、小笠原氏は「米国では取り調べに弁護士が立ち会えるだけでなく、容疑者は電話でも弁護士に相談できる。司法取引の導入ばかりで、取り調べられる人を守る仕組みの議論がない」と批判した。
 法務省はなぜ、司法取引導入に積極的なのか。反対する弁護士らが指摘するのが、独占禁止法で認められている課徴金減免制度(リーニエンシー)の成功だ。カルテルなどの違反行為を、公正取引委員会(公取委)に企業が自己申告する制度で、○六年に導入された。真っ先に申告した企業は刑事告発を免れ、課徴金は全額免除される。
 一三年度までに七百七十五件の申告があり、二百三十五件がリーニエンシーの適用を受けた。公取委の担当者は「リーニエンシーでカルテルが表に出るようになった。認めた企業が証拠も提出するので、関わった他の企業も否定しにくく調査の手間も減った」と話す。
 だが、独禁法に詳しい植村幸也弁護士は「リーニエンシーでも、最初に申告した企業の誇張した筋書きに、公取委が引きずられることもある」と指摘する。そうした危険性を踏まえ、「リーニエンシーは行政上の措置で、刑事事件とは異なる例外的な制度とみるべきだ。刑事事件は冤罪に巻き込む恐れがあり、デメリットが大きく、人権の問題になりかねない」と懸念する。
 「証拠捏造の疑いがある」として、三月に再審開始が決まった袴田事件弁護団団長の西嶋勝彦弁護士は「冤罪は、供述に頼りすぎて起きてきた。これまでの反省がない」と厳しい。「捜査側は客観証拠に基づいて立証することが大切なのに、供述を引き出すことばかりに、きゅうきゅうとしている。司法取引が法制化されると、新たな冤罪を生みかねない」

可視化置き去りで進む デスクメモ


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