変質する「平和」
第4部 沖縄に吹く風 上
(東京新聞2014年6月23日)
教科書で揺れる最前線の島
「竹富が間違った教科書を使っているんでしよ」
沖縄県石垣市の前教育長、江川三津恵(六七)は今月、教科書問題の講演会のビラを配っていたときに聞いた、中学生の言葉に衝撃を受けた。
国境近く、八重山諸島の石垣市、竹富、与那国両町はこの数年、教科書で揺れた。三市町教委でつくる協議会は、保守色の強い育鵬社の中学公民教科書を採択。反発した竹富町が東京書籍版を使ったことで、文科省が指導に乗り出した。
採択を主導したのは江川の後任の玉津博克(六一)。二〇一〇年三月、革新系の前任を破り、誕生した保守系市長の中山義隆(四六)の意を受け、教員の意見が反映されないよう協議会の規約を変えるなどの布石を打った。江川の目には自身の退任後の展開は「完全にシナリオができていた」と映る。「本土から保守系の政治家たちが来て尖閣問題をあおり、まずは教科書からっていうレールを敷いた」
◇
「地元では野蛮人扱いされてきたさ」。石垣市議の仲間均(六四)は話す。二十年間、防衛強化を訴えるため、尖閣諸島への上陸を繰り返し、罰金刑も受けた。一〇年九月に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件をきっかけに、本土から応援メールが増えた。
翌一一年一月、保守系の学者らがつくる「新しい歴史教科書をつくる会」の東京の講演会に登壇。採択教科書を変えるよう助言を受け、玉津に伝えたという。「教科書を変えさせた張本人は私」と自負する。
石垣漁港には青地に白文字で「尖閣で漁をする海人(うみんちゅ)の会」と書かれた看板がある。地元漁師ら約二十人が一三年に結成した。会員の與儀(よぎ)正(四二)は「尖閣周辺は台湾や中国の漁船であふれている」と嘆く。漁の最中も海保の船が張り付く。自由に漁ができないから燃料や氷代で赤字になる。
與儀は仲間の行動や保守的な教科書を支持する。「次の世代が尖閣で漁を続けるためにも、日本の領土だときちんと教えてほしい」
◇
隣国と付き合う知恵を
「ここは最前線なんだな」。一九九九年、東京から石垣に移住したマンゴー農家の川上博久(六五)は、港に停泊する海保の船を見てそう感じた。
マンゴー栽培は、台湾移民の農家に押しかけて学んだ。島名産のパインは、台湾からの移民が戦後に普及させた。かつては尖閣周辺でも日台の漁師が道具の貸し借りをしたという。
国境に近い島だからこそできる交流がある。川上は昨年から台湾にマンゴーの販路を広げ、今年は香港にも出荷する。
江川らと教科書問題にも取り組む。「子どもたちにきちんと教えるべきなのは、自衛隊の活動や領土問題よりも、隣国とうまく付き合ってきた知恵なんじゃないかな」 =文中敬称略
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六十九年前の六月二十三日、多くの犠牲者を出し、地上戦が終結した沖縄。戦争の記憶が薄らぐ中、本土からの「風」に揺らぐ姿を追った。(大平樹が担当します)
八重山の教科書問題
3市町教委でつくる教科書八重山採択地区協議会は2011年8月、中学校公民の教科書に、育鵬社を採択。国は政権交代後の13年以降、同一地区内で同じ教科書を使うと定めた教科書無償措置法を根拠に、東京書籍を使っていた竹富町を指導。下村博文文科相は14年3月、同町教委に教育行政で初の是正要求を出した。同町教委は6月、地区協議会を離脱した。育鵬社は東京書籍に比べ、自衛隊の海外活動の記述が充実しているが、沖縄の米軍基地問題は本文になく、欄外の記述にとどまる。
変質する「平和」
第4部 沖縄に吹く風 中
(東京新聞2014年6月24日)
「偏向」本土から圧力
地上戦終結から六十九年目の「慰霊の日」を迎えた沖縄。二十三日、梅雨明け直前の蒸し暑さの中、那覇市の護国神社には保守団体「日本会議」の関係者や制服姿の自衛官ら百人が集まった。ほぽ同時刻に平和祈念公園で開かれた県主催のものとは異なる慰霊祭だ。
集会では「むやみな基地撤廃論は県民の命を危険にさらす」との琉球大生の言葉に拍手がわいた。地元紙記者の姿はなく、昨年沖縄支局ができた保守系CS放送局「日本文化チャンネル桜」がカメラを回した。
「自分たちの宣伝のためだろうけど、報じてくれるだけ歓迎だ」。日本会議県本部の幹部(六三)は話す。
◇
「偏向報道だ」
米新型輸送機オスプレイ配備を批判する記事を展開した昨秋以降、琉球新報には毎日のように本土から抗議の電話が入る。社屋周辺では連日、報道姿勢をあげつらう車が巡回する。
局次長の松元剛(四八)は「批判は今までもあったが、『極左』とまで言われるようになったのは最近」と話す。ネットの情報をうのみにしている人も多い。
今年二月、政府もこれまでとは異質の強硬さを見せた。自衛隊の県内配備についてのスクープ記事に対し、防衛省は同紙に抗議するとともに、加盟する任意団体の日本新聞協会にも「適切な報道」を求めた。
さまざまな形の圧力。松元は「ヤマトンチユ(本土の人)が鋭角に入り込んで来た」と感じている。
◇
元沖縄県警刑事部長大舛重盛(おおますじゅうせい)(八四)=浦添市=は、米軍基地問題に対する地元紙の厳しい姿勢を「死んでも譲ってはいけない」と話す。
兄の松市は「軍神」だった。一九四三年一月にガダルカナル島で二十五歳で戦死。同年十月、功績を挙げた兵士に与えられる個人感状を県内で初めて受け、昭和天皇に報告された。当時の県紙は「大舛に続け」とあおった。
「兄が無上の光栄に浴し感激でいっぱいです。一日も早く征きたい」との重盛の談話も載った。校長室で記者に囲まれ、何を話したのかは覚えていない。「松市の死は軍に利用された」。
重盛が気付いたのは、戦争が終わってからだ。
沖縄の人々から奪った土地に米軍基地がつくられ、本土復帰後も押しつけられたまま。「どう報じるかは枝葉の問題。根っこにある基地問題が解消されなければ」。それでも偏向と批判する人に問いたい。「じゃあ誰が沖縄を権力から守ってくれるのか」=文中敬称略
特集 島は戦場だった 軍神として祀られた大舛大尉
(琉球朝日放送 報道部)
http://www.qab.co.jp/news/2010021616241.html
変質する「平和」
第4部 沖縄に吹く風 下
(東京新聞2014年6月26日)
独立論切実さ増す
日の昇りきらない早朝から、男女二十人ほどが、米兵たちの車に声をかける。
「マリーンー アウトー(海兵隊は出て行け)」。元教員の宮平光一(六八)は、赤色の誘導棒を下向きに振りながら抗議の意思を示した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)大山ゲート前で、二〇一二年秋から続く抗議行動だ。
きっかけは、新型輸送機オスプレイ配備だった。抗議集会に主催者発表で十万人余りが集まっても、県内全市町村の首長や議長らがこぞって政府に配備撤回を求めても、状況は変わらない。「こうやって声を上げる以外、もうやれることがないんだ」
「Thank you」。宮平たちが抗議する道路の向かいで、地元FM司会者の手登根安則(五〇)たちが米兵たちに向かって感謝の横断幕を掲げた。「怒りや不満を米兵個人にぶつけても意味はない。基地関係者のおかげで成り立っている店の人は基地がなくなれば生活できない」
普天間飛行場のフェンスにはグリス(潤滑剤)がべったりと塗られているところもある。基地反対の意思を示すリボンを取り付けにくくするためだ。ネット上には、抗議活動の参加者を数人が取り囲んで詰問する動画も公開されている。
反基地運動をしている入らの自宅や職場に「ヘイトスピーチをするな」など匿名の電話も入るようになった。宮平は「県民の抗議を無視する政府の姿勢が、彼らにお墨付きを与えている」と感じる。
◇
基地負担軽減の先行きが見えない袋小路の中で、県民の意識が引き裂かれていく。基地をなくすための独立論も、切実さが増す。
五月二十五日、宜野湾市の沖縄国際大学で開かれた「琉球民族独立総合研究学会」のシンポジウム。「独立の方法を考えるまでに、あまり時間はないのかもしれない」。琉球大教授の島袋純(五三)が訴えると、約百七十人の聴衆から「ああ・・」とため息にも似た同意の声が上がった。
学会は、基地のない沖縄を求める学者たちが一三年五月、独立を前提として学問的に研究するために設立した。
ネットでは「中国の手先だ」ともたたかれる。だが学会が「独立」をうたうのは、沖縄が日本の「植民地」になっているという問題意識からだ。オスプレイ配備が強行されたことは、沖縄が復帰前に本土の米軍基地を押しつけられた図式と同じと考える。
沖縄戦の後、米国統治下の沖縄でわき上がった本土復帰運動は、憲法で基本的人権が保障されることを望んだ人たちが中心になった。今、政府は憲法九条を骨抜きにする解釈変更を急ぐ。島袋は言う。「本土が憲法を捨てようというのなら、沖縄が一緒にやっていく筋合いはない。そう思いませんか」 =文中敬称略。
(大平樹が担当しました)
条文あらためて読み解くと… 理屈詰めても9条違反
(東京新聞【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2014062602000155.html
安倍政権が目指す集団的自衛権の行使容認。歴代政権が守ってきた憲法解釈を変えようとしているが、憲法9条には、他国を武力で守る集団的自衛権の行使を認める文言はどこにもない。政府が憲法解釈の変更を「限定容認」「必要最小限度」などといくら説明しても、そもそも9条違反だ。自衛隊のイラク派遣などで、やせ細りながらも「平和主義」の屋台骨になってきた9条は、重大な岐路に立たされている。
(関口克己)
■「無」から「有」
日本が海外で武力を使う集団的自衛権を行使するなら、実際に任務を果たすのは自衛隊だ。
自衛隊は主要国に匹敵する軍事力を持っている。防衛省予算は年間約5兆円で、世界の国別軍事費で8位(2013年)。
航空兵力は400機(輸送機などを除く)で、英国の約360機よりも多い。陸上兵力14万人は英国やドイツをしのぐ。
だが、9条は「陸海空軍その他の戦力は保持しない」と掲げているため、自衛隊の存在さえ違憲との学説は根強い。自衛隊の合憲性が争われたいくつかの裁判でも、明確に合憲と認めた判例はない。
政府は「専守防衛」を防衛政策の基本に、自衛隊合憲の理論武装をしてきた。日本が独立国としての平和と安全を守るため、他国から攻撃された場合に反撃する個別的自衛権だけが憲法上認められると解釈し、それを担う組織である自衛隊は合憲との考え方だ。
歴代政府は、自衛隊を「わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織」とも説明してきた。9条が持つことを禁じる「戦力」と区別するためだ。
学習院大の青井未帆教授(憲法学)は政府の合憲論を「憲法の文言上、『無』から『有』を生み出したウルトラCの技だ」と指摘。憲法に詳しい伊藤真弁護士も「文言を素直に読めば、自衛隊は違憲との疑問が出て当然」と話す。
集団的自衛権の行使は、自衛隊違憲論を飛び越え、9条の根幹である「戦争の放棄」の放棄につながる。自衛隊が海外に赴き、他国を守るために武力を使えば「自衛」の枠を外れ、国際的にも自衛隊は「軍隊」だと示すことになる。
海外・武力行使「自衛隊」を逸脱
■逆行
安倍政権は、集団的自衛権の行使を認めても、湾岸戦争やイラク戦争のような戦闘には加わらないと強調し、想定する活動として攻撃を受けている米艦の援護や、停戦前の海上での機雷掃海を例示。「行使は限定的にとどまる」との説明を繰り返している。
集団的自衛権に関する与党協議では、自民、公明両党は行使を禁じた過去の政府見解をいろいろな角度から読み解き、どういう理屈なら集団的自衛権を認められるかという論争を続けている。
しかし、政府見解の原点である9条は、武力による威嚇または武力の行使を「永久に放棄する」と明記。「交戦権」も認めていない。与党がどれだけ議論しようが、政府が限定論を唱えようが、9条を読む限りは海外で他国と戦い、武器を使ってよいという答えは出てこない。
青井氏は「自分の防衛から他人の防衛という理屈は出ない。日本を守るための自衛隊というのが政府の説明だった。もはや解釈として成り立たない」と語る。
憲法の前文には「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」するとの理念も書かれている。
伊藤氏は「この一節は、戦前の日本の行為に対する反省だ」と指摘。「イラク戦争後からも分かるように、軍事力では何も解決しないというのが世界の大きな潮流だ。世界の流れがようやく日本の憲法に追いつきつつあるのに、日本が集団的自衛権を認めてしまえば、それに逆らうことになる」と強調した。
公明・山口代表 試案受け入れる意向
(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140626/t10015537861000.html
公明党の山口代表は、集団的自衛権の行使容認について「安全保障の環境が大きく変わってきており、国民の権利を守るため、政府が従来言ってきた個別的自衛権に匹敵するような集団的自衛権であれば、一部限定的に容認する余地はあるのではないか」と述べました。
集団的自衛権 公明代表が行使容認 歯止めの確約ないまま
(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014062702000140.html
世論の批判 公明内に矛盾も/公明議論「かなり成熟」 集団的自衛権で山口代表
(しんぶん赤旗)2014年6月27日
集団的自衛権行使の容認
解釈改憲で平和守れぬ
(全国商工新聞)2014年6月23日
解釈改憲による集団的自衛権行使容認へと突き進む安倍内閣。なぜこうした世論が形成されるのか。権力をチェックしよ久としない大手マスコミの姿勢と集団的自衛権の偽りの姿を、元外務省国際情報局長の孫畸享さんに聞きました。
国民に真実伝えず
外国特派員協会で講演したフィギュアスケートの浅田真央選手が「大事なところでいつ
も転ぶ」との森元首相の発言についてコメントを求められ、「森さんも今は後悔していると思う」といったことを覚えている人は多いでしょう。
しかし、外国特派員協会の会長が、特定秘密保護法について「報道の自由、民主主義の根本を脅かす悪法だ」などと警告したことはご存知でしょうか。
福島第1原発の事故直後、大手マスコミは一斉に現場から離れました。生命と健康の危険が大きいと予測し、離れるよう指示が出たわけですが、それならば、新聞の報道は「生命、健康の危険がある」と書かなければならない。しかし政府の発表そのままに「直ちに健康に被害が及ぶものではない」と垂れ流しただけでした。
集団的自衛権の問題でも同じようなことが起きています。
ニューヨークータイムズ紙(5月8日付)は「日本は民主主義の危機に直面している」との社説を掲げ、「安倍首相は憲法解釈を変えることで、憲法9条を避けようとしている。これは民主主義の過程を覆すものである。日本は民主主義の真の危機に直面している」と書きました。しかし、これも日本ではほとんど報道されないため多くの人に伝わっていません。
国際ジャーナリストの組織「国境なき記者団」の調査によれば、日本の「言論の自由」の国際的評価は、特定秘密保護法、原発報道を機に低下し、台湾(50位)、韓国(57位)を下回る59位です。本当に知らされるべきことが、国民には伝えられていないのです。
先の選挙で大勝した自民党は選挙公約で「TPPには参加しない」「消費税はすべて社会保障に充てる」などと平気でウソをついてきました。マスコミも政治も本当のことを伝えない。このままでは、本当に日本社会は壊れていくと思います。
集団的自衛権の問題でも多くの人が「日本の安全に関係がある」と思っていることでしょう。しかし私は、「日本を守るためではない。アメリカの”傭兵(ようへい)”(雇い兵)になるためのシステム」だと考えています。
日米安保条約第5条はこう書かれています。「各締約国は日本国の施政下にある領域における(いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って、共通の危険に対処するように行動することを宣言する」
要するに、アメリカの場合は日本の国土を他国が攻撃してきたら、自分への攻撃とみなして、米国の憲法の範囲内で行動する、ということです。
尖閣問題は無関係
しかし、中国が日本の領土である尖閣諸島に上陸した場合、日本は個別的自衛権で対処できるのであり、集団的自衛権でどうこうする話ではない。それをあたかも、日本の法整備が整っておらず、集団的自衛権でやらなければいけないという。これが一番のウソです。
4月に来日したオバマ大統領も、尖閣諸島について「安保条約5条の範囲内にある」と発言し、マスコミもこの点を大きく取り上げました。しかし、尖閣関連でオバマ大統領はあと三つ大事なことを話しています。
一つは中国をあまり刺激するな。二つ目はアメリカは領有権問題についてどちらの立場にも立たない。そして三つ目。これが一番強調したことですが、平和的解決をしろ。非難合戦はできるだけ小さくしろ-でした。
本来なら、新聞の見出しは「オバマ大統領 安倍氏に平和解決を目指せと強調」と書かなくてはいけない。マスコミはこれを全然伝えていません。
これに関連し、アメリカの記者の「5条の適用とは米軍が出るということか」との質問に「レッドライン(越えてはならない一線)はない」と答えています。シリア問題でオバマ大統領は「レッドラインを越えたら米軍は出る」といっていますが、尖閣問題では「ない」と答えています。
アメリカの憲法では交戦権は大統領ではなく、議会にあります。議会が承認しない戦争はできない。だから大統領が言ったのは議会が承認すれば、米軍は出ますよ、ということに過ぎません。中国が出てきたらアメリカが自動的に出る、というわけではないのです。
つまり、尖閣問題は集団的自衛権とは関係ない、というわけです。
報復招く危険性も
安倍さんは「日本人を載せた米艦船の防護」「機雷の掃海」なども集団的自衛権行使の事例として挙げています。
私は外務省職員として、最初はソ連・ロシアに5年間いました。イランーイラク戦争のときはイラクに3年、99年にはイラン大使としてテヘランにいました。
何かあった場合、邦人をどうやって保護し、避難させるかを考え、在留邦人と相談もし、避難ルートも検討しました。その際、アメリカの軍艦や軍用機が来ることを想定し、避難を考えるか。そんなシナリオなんてありえないし、考えもしません。安倍さんは、海外に在住している邦人150万人、年間の旅行者1800万人と関係あるようなことを言っていますが、まったく関係ありません。
戦闘中に機雷を除去することは、これ自体戦闘行為です。機雷を除去した船は当然、攻撃の対象になります。戦争行為の一環なんですよ。
集団的自衛権行使の容認といいますが、安倍さんが挙げている理由は必要不可欠のものではありません。最初に指摘しましたが、アメリカの傭兵になるためです。傭兵というのは、普通お金を払ってもらうのですが…。
個別的自衛権は、日本の国土が攻撃されたとき、すなわち相手が攻撃したときに発動されますが、集団的自衛権は、相手がまだ攻撃していないときに使われるものです。集団的自衛権の一番大きな問題は攻撃されないときに行動する。そして米軍と一緒に行動する。これが一番問題なんです。
少し昔の話ですが、04年3月11日、スペインのマドリードで爆破事件が起き、191人が亡くなり、2000人が負傷した。なぜこうしたことかおきたのか。スペインのイラク戦争参加にアルカイダが報復したからです。
「安全を」と言っていながら、イラク戦争のように戦闘に参加すれば、当然のことながら、「目には目を」となって、相手は報復を考えます。
解釈改憲に集団的自衛権の行使というのは、日本の本当の意味の平和につながるものではありません。あらためてそのことを強調したいと思います。
孫崎享(まごさき・うける) 1943年旧満州国鞍山生まれ。東京大学法学部中退後、外務省に入省。イギリス、ソ連、アメリカ(ハーバード大学国際問題研究所研究研究員などを経て駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。2002年~09年まで防衛大学校教授。主な著書に『小説外務省』(現代書館)、『戦後史の正体』(創元社)、『日米同盟の正体』(講談社現代新書)、『日本の「情報と外交」』(PHP新書)など多数
”おばちゃん力”で戦争止める
(全国商工新聞)2014年6月30日
全日本おばちゃん党代表代行
大阪国際大学准教授
谷囗真由美さんに聞く
「オッサン政治に物申す!」―。「戦争する国づくり」など暴走する安倍政権におばちゃん目線でヅッコミ”を入れる「全日本おばちゃん党」は、女性が持っている力の底上げをめざして、知識と知恵をつけようと意見交換を進めています。代表代行を務める法・国際法学者で大阪国際大学准教授の谷口真由美さんに、集団的自衛権の問題点を聞きました。
うちの子もよその子も
戦場に行かせたくない
おばちゃん党では、弱肉強食の社会をめざす橋下徹・大阪市長の「維新八策」に対抗して弱者を大事にすることを提言した「おばちゃんはっさく」を発表し、多くの共感を得ています。
今こそ、おばちゃんの力を発揮し、戦争する国づくりを許すなの声を上げていかなければなりません。
集団的自衛権 簡単な例えで
私は、集団的自衛権を「ヤンキーのケンカ」と言っています。米国が困っているときに「助太刀いたす!」ということ。つまり、「仲良しの連れ(米国)がやられたから、加勢しろって言われたら無条件でいくて! 連れやから助けに行く」というわけです。
おばちゃんの大半は、安倍さんがきな臭いと思っています。「何か怪しい、この才ッサン」とテレビの映像から嘆ぎ分けています。しかし、そのきな臭さを言語化するのが難しい。それでも、「あの人、最近顔つき悪いよね」「顔があかん」の一言で、きな臭さを嘆き分ける能力があります。その感情を理屈づけて言語化したら、おばちゃんは最強になります。
国連憲章でも 禁止が”原則〃
自民党副幹事長の中谷元さんとテレビ討論したときのことです。中谷さんは、「すべての侵略戦争は禁止されているけれど、自衛のための戦争は禁止されていない」と言ったので、「国連憲章は、国際紛争の平和的解決を求めています。自衛のための戦争という言い訳の下で、みんなが戦争をすることが目に見えているから、武力行使禁止が原則なんですよ」と指摘しました。すると、中谷さんはおたおたしだして、今度は「集団的自衛権は国際法で認められている」と言い出しました。
私は「国連憲章第51条ですよね。それは集団安全保障が機能するまでの暫定的措置としてできたもので、小さな国が肩を寄せ合って大国が攻めてきたときに、とりあえず自分らで頑張って守ろうとする、小国の権利なんですよ。米国が使うなんて想定して集団的自衛権を入れたわけちゃいますよ」と反論しました。
戦争は最大の 貧困ビジネス
多くの自衛官が、紛争に行きたくないと言って辞めていけば、徴兵制が敷かれるかもしれません。町工場が作るネジも武器のネジになるかもしれません。「人殺しの道具をつくる商売をさせられてしまう」ということです。国民全員が戦争に加担することになります。
戦争は最大の貧困ビジネスです。誰が泣くかといったら、貧困層など弱い者が泣くんです。
お金がない家庭では、自衛隊に入れば資格や運転免許が取れ、パンツまで支給される。「家にお金はないから軍隊に行って」ということもあるでしょう。米国をはじめ世界の軍隊をみても貧困層から軍隊に入隊しています。最前線で死ぬのは貧しい家の子なんです。そんな家の子どもが危険な目に遭うんです。
昔は、努力すれば報われる社会で、教育によって階層を上げていくことができました。今は、それすらかなわない時代です。
次世代思えば 冷静に対話を
おばちゃん党では、「おばちゃんはっさく」で「うちの子もよその子も戦争に出さん!」と主張しています。どこの国の子もオッサンの見栄や欲望のために殺したり、殺されたりしてほしくないんです。ケンカを売られても、あおられても、冷静に話し合う知恵を駆
使してほしい。それが次世代に責任を負う、大人の生き方なんです。今、踏ん張らないといけないんです。
もしも、わが子が「家族や大切な人を守るために戦場でたたかう」と言い出したら、「そんなに戦地に行きたいというなら、お母さんを殺してから行きなさい。大事な人を守るためにたたかう?私のためにはたたかわなくて結構」ということです。
ヒョウ柄着て 秘密法に抗議
世の中や政治が変だと思ったら周りの人に、「何か、変だと思わへん?」と伝えることが大切だと思います。おばちゃんのクチコミ、井戸端会議の波及力はすこい。集団的自衛権は危ない、憲法改正が危ないと思っているのであれば、「最近、ちょっとややこしない?」と話をする。おばちゃん党のクループでカフェに集まったときも、大きな声で「集団的自衛権って危ないようね」と言ったり、小さい声でこそこそと「安倍さん、戦争するかもしれへん」つて言ったり。おかしいなと思ったら、誰かに伝える、それが「おばちゃん力」なんです。
特定秘密保護法が強行採決(昨年12月6日)されたことに抗議するために、毎月6日は「ヒョウ柄の物を身につけよう」と行動をしています。
「今日はどうしたの? ヒョウ柄なんか着て」と聞かれたら、「秘密保護法に反対をヒョウ明してんねん。知ってる?」と話のきっかけをつくるのが大切で、おばちゃんはそれができるんです。現に、大阪市の空堀商店街の魚屋のおばちゃんは、毎月6日にヒョウ柄を身に着けて、秘密
保護法に抗議を続けています。
疑問に思ったら自分の感性を大事にしてほしい。無関心が将来の人のしんどさにつながります。毎日の仕事、商売が忙しいと言い訳をして、社会の出来事から知らんふりしていたら、自分の子どもや孫に将来しんどい思いをさせることになると自覚した方がいい。
へ理屈政治に ツッコミ入れ
おばちゃん党は、リアルな政党ではなく、インターネット上の仲間の集まりですが、目的は二つ。一つは、おばちゃん全体の底上げ、二つ目はオッサン社会に愛とシャレでツッコミを入れる、です。
「オッサン政治」の下で長年、決定する場所から女性が締め出された結果、政治や経済のことに疎くなりました。オッサンというのは、へ理屈をこねくり回して、上から目線で意見を押さえつけようとします。変だと指摘するには、女性が知識や知恵をつけないと対抗できないでしよ。
あふれる愛で 社会良くする
「おばちゃん」は、おっせかいで愛と情にあふれた存在。政治のことを自分のこととして捉えています。おばちゃんの愛で社会を良くする日は近いと思います。
全日本おばちゃん党
「おばちゃんの政治参加が世界を救う」とする「おばちゃんはっさく」や、「みんなに優しい国」へのシナリオ「腹太の方針」などを掲げ、活動。詳細はフェイスブック「全日本おばちゃん党」で検索。
http://osakanet.web.fc2.com/AJOP/
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変質する「平和」と”はっさく”
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