◆【小出裕章ジャーナル~第64回】
揺れる高速増殖炉もんじゅの行方 2014-3-29
http://youtu.be/q51PwLwvNMY
揺れる高速増殖炉もんじゅの行方について 「超優秀な核兵器材料が手に入るということで、どうしても動かさなければいけないのです」~第64回小出裕章ジャーナル
http://www.rafjp.org/koidejournal/no64/
※この記事は時間の関係で放送できなかった部分も含めてお読みいただけます。
石丸次郎:
今日のテーマは、揺れる高速増殖炉「もんじゅ」の行方についてです。 ラジオフォーラムでは、これまでも「もんじゅ」についてはたびたび触れてまいりました。 「もんじゅ」の問題について、たびたび小出さんにも解説をしていただきましたけれども、 3月5日にNHKがこんなニュースを流してます。
「フランスが取り組んでいる、いわゆる核のゴミを減らす次世代型原子炉の 研究開発に協力するため、もんじゅの活用も見据えた政府間の取り決めを検討している」
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なにか「もんじゅ」の新しい延命策をフランスとやり取りを重ねているようですが。 まず、リスナーのために「もんじゅ」のおさらいを小出さん、 ちょっと簡単にお願いできますでしょうか?
小出さん:
はい。原子力というのは、ウランを燃料にして発電をしようとする、そういう技術です。 ただ、ウランと一口で言っても、そのウランの中には2種類ありまして、 いわゆる「燃えるウラン」、つまり「核分裂するウラン」というものと、 「核分裂しない燃えないウラン」というものがあるのです。 そして、大切な「核分裂するウラン」というのは、 実はウラン全体の0.7パーセントしかないのです。
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私自身は原子力が将来の夢のエネルギーで、資源が山ほどあると思って、 この道に足を踏み込んだのですけれども、実は燃えるウランはもうほとんど無くてですね、 原子力をやろうとすると、すぐに無くなってしまうということに気が付いたわけです。
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そこで、ウラン全体の99.3パーセントを占めている「燃えないウラン」。 それをなんとか活用できないかと考えまして、 そのウランをプルトニウムという物質に もし変換することができるのであれば、 そのプルトニウムがまた原子力発電の燃料になると考えたのです。
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プルトニウムというのは長崎の原爆にもなった材料ですから、 原子炉の中で燃料として使うこともできるということを実現しようとしたのです。 その実現するためには、「燃えないウラン」を効率よくプルトニウムに 変換していく技術が必要になるわけで、 そのための原子炉が高速増殖炉と私達が呼んできた原子炉で、 日本では「もんじゅ」という原型炉と言うのですが、 まあ実験炉の毛の生えたようなものをなんとか作って やってみたいと計画が進んできました。
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日本の原子力開発の基本方針は、原子力委員会が決める「原子力開発利用長期計画」(以下、「長計」と記載)で定められます。その「長計」で高速増殖炉が初めて取り上げられたのは、1967年の第3回「長計」でした。そこでは、高速増殖炉が「昭和50年代後半」(1980年代前半)に実用化することが目標とされています。ところが5年後の1972年の第4回「長計」では、その目標が「昭和60年代」となり、1978年の第5回「長計」では「昭和70年代」、1982年の第6回「長計」では「2010年頃」というように、どんどんと先延ばしになりました。そして、1987年の第7回「長計」では「2020年代から2030年頃」に「技術体系の確立を目指す」となって、実用化という目標すらがなくなってしまいました。さらに1994年の第8回「長計」では、その目標が「2030年頃まで」と後退した上、ついに2000年の第9回の「長計」では、目標とする年度自身を示すことができなくなってしまいました。昨年改定された長期計画は原子力政策大綱などと言う大仰な名前に変わり、再度高速増殖炉の開発の時期が書き込まれました。それでも商業用規模の1号機をようやく2050年に立ち上げようと言うものです。その経過を右の図に示します。左下から右上に引いた点線は、5年経つと目標は10年先に延びることを示しています。このように、科学的な知見が増えれば増えるだけ、目標が急激に遠ざかっていくような技術は到底実用化しません。それをあたかも希望があるかのようにいいながら、巨額の資金を投入することはおよそ常軌を逸していますし、このようなものが国の原子力開発の基本方針であったことを反省しなければいけません。
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ところが、その「もんじゅ」というのは全くの欠陥原子炉でして、 これまで1兆円以上のお金を注ぎ込みましたけれども、 豆電球1つ点けることができないという、そんな原子炉なのでした。
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石丸次郎:
はい。この福井県敦賀市にある「もんじゅ」。 今、おっしゃられたようにですね全然動かなかったどころかですね、 事故をたびたび起こしてます。
95年に試運転を開始しましたけれども、ナトリウムの漏えい事故。 それから、2010年には炉内に中継装置が落下するという大きな事故。 それから、点検を怠る情報隠しが発覚してですね、 2013年、昨年5月には、とうとう原子力規制委員会から 運転準備中止命令が出されると。
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ですから、これで「もんじゅ」は終わりに向けた計画が始まるのかなと 思ったところがですね、フランスと組んでやると。 このフランスが計画している核のゴミを減らす次世代型原子炉、 これは、どういう物なんでしょうか?
小出さん:
要するに悪あがきをしている。
石丸次郎:
悪あがき。はあ~。
小出さん:
世界中の原子力推進派の人達は、ウランが少ないということはすぐに気が付きまして、 高速増殖炉を動かすことができない限りは、 原子力がエネルギー源になんかならないんだということが、 もうずーっと前から分かっていたのです。
そのため、なんとしても高速増殖炉を作ろうとして、 米国にしてもフランスにしてもロシアにしても、 みんながやろうとしたのですけれども結局できなかったのです。
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フランスもラプソディーという小ちゃな実験炉。 そして、フェニックス。つまり、不死鳥という原型炉。 Image may be NSFW.
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そこで、フランスにしても日本にしてもエネルギー源にならないにしても、 なんとか高速増殖炉と実は名前が付いてるのですが、 今はその増殖というのを取ってしまって。 つまり、プルトニウムを増殖なんかもうできないと。 高速炉という名前の原子炉を動かそうとしているのです。
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石丸次郎:
なんか記事を検索しててもね、増殖という言葉はどんどん消えていってるんで、 おかしいなと思ってたんですけど、そういう理由だったんですね。
小出さん:
そうです。 もうプルトニウムをどんどん増殖して、エネルギー源にするっていうことは できないってことがもう分かってしまっているのです。 それでも、なんとしてもこの原子炉を動かそうという人達がいるわけで。 それは、なぜかというとですね、 この高速炉という原子炉が、もし高速炉を動かすことができるなら、 その高速炉の炉心の周辺にブランケットという、 いわゆる毛布と呼ぶような領域があるのですが、 そこに超優秀な核兵器材料のプルトニウムが貯まってくるという、 そういう性質を持っているのです。
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日本は、もともと核兵器を作りたいという動機に基づいて、 平和利用とか言いながら原子力開発を始めたわけですけれども。 今日、日本が使っている原子力発電所の原子炉、私たち軽水炉と呼んでいますが。 その原子炉では、核分裂性のプルトニウムが せいぜい7割ぐらいしか含まれていないプルトニウムしかできないのです。
しかし、もし高速炉を動かすことができれば、そのブランケットの部分には、 98パーセントが核分裂性というプルトニウムが貯まってくるのです。 超優秀な核兵器材料が手に入るということで、 どうしてもこの原子炉は動かさなければいけないのです。
石丸次郎:
なるほど。 小出さん、すみません。 小出さんは、つまりこの非常に核兵器を作るために優秀なと言いますか、 純度の高いと言いますか、そのプルトニウムを獲得を目指してる というふうな見方されているってことですよね?
小出さん:
そうです。 ですから、今、その石丸さん、そのゴミの処理、始末のためにとかですね フランスが言っていて、日本もまあその研究に協力するっていうようなことを 言ってますけれども、本当はそうではないのです。
本当の彼らの目的は、超優秀な核兵器材料を懐に入れたいのです。 そのためには、もうエネルギー源にならないということは歴然と分かってしまったので、 なにか理由を作らなければいけないということで、 核のゴミを少しでも減らすというような理屈を今探してきたということです。
石丸次郎:
なるほど。 小出さん、この政府のですねエネルギー基本計画原案。 2月26日に発表されてますけれども、この中にこういう一説があります。
※エネルギー基本計画(案) 経済産業省
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/kihonkeikaku/140225_1.pdf
「高レベル放射性廃棄物の現用化。有害提言等の観点から使用済み燃料を再処理し、 回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本方針とする。」
と、つまり核のゴミをここに7分の1に減らすと。 そして、有害でない、つまり非常に汚染度の高い物を、汚染を減らしいくという。 そういう研究をするんだっていうことだと思うんですけれども。 こういうことは可能と言いますか、目指す意味っていうのはあるんですか?
小出さん:
はい。 原理的に言えば、高速炉の中にプルトニウム等を入れて燃やすことはできる。 つまり、もう増殖できないこと分かっているわけですから、 プルトニウムをそこに入れれば燃やすということはできる ということは分かっているわけです。
で、プルトニウムは半減期という半分に減るまでの時間が 2万4千年もかかってしまうという、途方もなく寿命の長い放射性物質ですので、 それをなんとか私達の世代で消していきたいと私自身も思います。
そのために、さまざまな研究が続いてきたのですけれども、 それを今度「もんじゅ」を使って研究する というような理屈を考え付いたわけですね。
そして、その可能性がもちろん科学的に言えばゼロではありませんけれども。 今、石丸さんもちょっとおっしゃって下さったように、 それを実現しようとすれば、まず再処理ということをやらなければいけないわけで、 再処理をやってしまうと、これまでの世界中の再処理工場の歴史が示してきたように、 周辺環境を猛烈に汚染してしまいます。
そして、事故の危険も消えません。 そして、おまけにようやく取り出したプルトニウムをまた 「もんじゅ」というような危険な原子炉で燃やそうとするわけですから、 そこでもまた危険を抱えてしまうわけです。
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これまで確かに危険な物を作り出してきてしまったけれども、 それをまた別な形の危険なやり方でなんとかしようとする。 そういう試みですので、私はできればそういう方向じゃない方向を 目指すべきだと思いますし、先ほども聞いて頂いたように、 そのような屁理屈をこねながら結局彼らは 超優秀な核兵器材料を欲しんだろうなと私は思っています。
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石丸次郎:
この「もんじゅ」をなんとしてでも延命させたいと。 これ実は、断層が「もんじゅ」の原子炉地下にあるということが見つかってて、 活断層かどうかの検証が今続いてますよね。
小出さん:
そうです。
石丸次郎:
そういう意味でも「もんじゅ」は非常に危険だっていうこと。 それから、事故が繰り返されてきたっていうこと。 そして、もうかなり古いということがありますので、「もんじゅ」は てっきりもう去年の段階で、これ終わりに向けて動き出すのかなと思ったら、 ところがどっこいっていう感じですね。
小出さん:
そうなのです。 先ほど、石丸さんおっしゃってくださったけど、 1995年にナトリウム漏れという事故を起こしました。 そして、ずーっと停止していて、14年間止まったままだったのです。 それを2009年にまた動かし始めようとして、 すぐにまた事故を起こしたわけですけれども。
皆さん考えていただきたいんですけれども、14年間も止まったままだった機械、 自動車でもいいですけれども、そんな物をもう一度動かそうという気に なるかどうかということなんだと思います。
日本の政府、核兵器を作りたいという人達から見れば、確かにこれはまずいし、 当初の皆さんに言ってきたような増殖というような目的も達成できないけれども、 それでもやはり核兵器材料を懐に入れるためには、 なんとしても諦めることができないということでやってしまったわけです。
石丸次郎:
諦め悪いですね~。
小出さん:
ほんとに諦めが悪いと思います。
石丸次郎:
ほんと困ったもんですね~。
小出さん:
はい。
石丸次郎:
小出さん、もうちょっとお聞きしたいんですが、 今日はじゃあこの辺までにしたいと思います。 ありがとうございました。
小出さん:
ありがとうございました。
安倍総理 プルトニウム大量保有に関し弁明(14/03/26)
http://youtu.be/qYX_nFfUYS0
核セキュリティサミットに出席した安倍総理大臣は、プルトニウムの大量保有を海外の記者に指摘され、弁明に追われました。
(政治部・足立直紀記者報告)
米通信社記者:「(Q.なぜ日本は大量の核物質を保有し続けるのか?危険ではないか?)」
安倍総理大臣:「我が国の取り組みは、核セキュリティサミットの目的と完全に合致している」
安倍総理は、「利用目的の無いプルトニウムは持たない」と明言し、東海村の実験装置の高濃縮ウランとプルトニウムをすべて返還することでも合意した実績を強調し、懸念の払拭に努めました。この会議を推進してきたアメリカのオバマ大統領からも、「日米合意が今回のサミットの最大の成果だ」とお墨付きを得たと胸を張っても見せました。しかし、原発再稼働もまだ見通せないなかで、危険なプルトニウムを「使う」と言って大量保有し続けることに世界から厳しい目が向けられるのは避けられなそうです。
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サンデー毎日2002年6月2日号
「憲法上は原子爆弾だって問題ではないですからね,憲法上は,小型であればですね」「戦術核を使うということは昭和35年(1960年)の岸(信介=故人)総理答弁で『違憲ではない』という答弁がされています。それは違憲ではないのですが,日本人はちょっとそこを誤解しているんです」~官房副長官安倍晋三47歳
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政府の新たな核兵器政策 核使用を容認「集団的自衛権として」
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「もんじゅ」と人の叡知
(小出 裕章:京都大学原子炉実験所)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Monju/souzou.htm
宇宙の一つの生命としての人類
宇宙に関して考え始めるときりがない。人類が生きている地球は、太陽を回る九つの惑星のうちの一つである。太陽は銀河といわれる星雲の中の一つの星であり、銀河の中には太陽と同じような星が二〇〇〇億個あるという。そして、宇宙の中には銀河と同じような星雲が一〇〇〇億個あるのだという。何百億光年の彼方にある星の、そのまた先に宇宙はあるのだろうか? 宇宙に果てがあるとすれば、そのまた先は何になっているのだろうか? 無限といえるほどの星の、どこかには地球と同じ様な星もありそうだが、そこには生命が存在するのだろうか? もし存在するとすれば、その生命とはどんなものなのだろうか?
エネルギー問題と原子力
私は第二次世界戦争の後に生まれ、高度成長といわれる時代に育った。私が中学・高校生の頃、一九六〇年代半ばには、「石油・石炭などの化石燃料は、燃やしてしまえば、いずれはなくなる。特に、石油はあと三〇年でなくなる。そのため、未来のエネルギーを確保するためどうしても原子力が必要だ」と言われていた。ところが、その後何年たっても、石油がなくなるまでの期間はあと三〇年と言われ続け、三〇年たった現在、石油がなくなるまでには、あと五〇年あると言われるようになった。石炭に関して言えば、それを使い切るまでにはおそらく一〇〇〇年の単位の時間が必要であると言われている。もちろん、石油にしても石炭にしても、地球が何億年かかけて作り上げてきた資源であり、それを一方的に使っていけば、いつかなくなることは当然である。しかし、「化石燃料がなくなるから原子力」といわれた原子力も、地下資源であるウランを燃料とする。当然、ウランも有限の資源である。おまけに、私自身も原子力に足を踏み込んではじめて知ったのであるが、ウランという資源は、利用できるエネルギー量に換算して、石油に比べて四分の一、石炭に比べれば一〇〇分の一程度しか存在しないという大変貧弱な資源なのであった。「原子力は近い将来、燃料がなくなるので、化石燃料を使い続けるしかない」というのが、むしろ正しい表現なのである。
ところが、原子力を推進する人たちには一つの夢があった。ウランには「燃えるウラン」と「燃えないウラン」があり、従来の原子力で利用できるウランは、ウラン全体のわずか一四〇分の一の「燃えるウラン」と呼ばれるものだけであった。しかし、「燃えないウラン」を「プルトニウム」に変換できれば、その「プルトニウム」もまた原子力の燃料として利用できるというのである。いや、もう少し直截に言ってしまえば、原子力とは「プルトニウム」を利用できるようになってはじめて意味のあるエネルギー源になるのであって、それができなければ、ごく短期間で枯渇してしまうエネルギー源なのであった。ただ、仮に原子力を推進する人たちの思惑どおりに「プルトニウム」の利用ができたとしても、その暁に利用できるエネルギーの総量は、ようやく石炭に匹敵する程度のものでしかなく、いずれにしても原子力が化石燃料を超えるエネルギー源となることはありえない。
その上、「プルトニウム」を利用するためには次の三つの困難な問題がある。①「プルトニウム」という元素は天然には存在せず、人類が初めて生み出したものであるが、それは一〇〇万分の一グラムで肺ガンをひき起こすという超危険物である。②「プルトニウム」はウラン以上に優秀な原爆材料となる。③「燃えないウラン」を「プルトニウム」に変換して利用するためには高速増殖炉と呼ばれる超危険な原子炉を動かさねばならない。
高速炉開発の歴史と「もんじゅ」
昨年暮事故を起こした「もんじゅ」と呼ばれる原子炉はこの高速増殖炉と呼ばれる原子炉の一つである。この型の原子炉が危険なのは、次の三つの理由による。①「プルトニウム」を高濃度で取り扱うため、爆発しやすい。②物理学的な理由から、原子炉を冷やす材料として水を用いることができず、ナトリウムを用いる。そのナトリウムは空気に触れると発火し、水に触れると爆発する。その上、水と違って不透明、さらには簡単に放射性を帯びるというように、著しく扱いにくい。③ナトリウムは「熱しやすく冷めやすい」という性質を持ち、原子炉の運転状態の変化によって配管などに大きな熱応力がかかる。それを緩和するため、配管が薄く長大にならざるを得ない。結果的に、プラント全体が複雑きわまりないものとなり、地震などの外力に弱い他、機械的なトラブルを生じやすい。
日本はもともと欧米各国に遅れて近代科学技術に触れた。そして欧米各国に追いつけ、追いこせと科学技術の発展に力を注いだ。しかし、第二次世界戦争で負けたことから、日本の科学技術はさらにまた何年も遅れを負わせれる。原子力はその筆頭であり、敗戦後一九五二年のサンフランシスコ講和条約締結まで日本は原子力開発を禁じられていた。そのため、日本の原子力開発は欧米各国に比べて一〇年から三〇年遅れて彼らの後を追うことになった。先を行っていた欧米各国も一度は高速増殖炉開発に向かったが、そのいずれもが高速増殖炉の危険性を乗り越えることができず、度重なる事故のあげくに開発を放棄するに至った。また米国の場合には、高速増殖炉の危険以上に、核拡散への懸念から「プルトニウム」利用そのものを放棄したのであった。日本は、「日本は核開発はしない」、「日本の技術は優秀だ」と主張しながら、遅れて高速増殖炉に取り組んだが、日本だけが例外であるはずもなく、当然のごとくに「もんじゅ」も事故に遭遇した。それも、未だに定格出力に達しない試運転の段階で、ごく初歩的な設計ミスからナトリウムを空気中に漏洩させ火災となった。この一事だけでも、日本の原子力技術の底の浅さを示すのに充分であった。しかし、「もんじゅ」の事故が示したものはそれだけではすまなかった。起こってしまった事故への対応を誤って事故の進展を拡大し、さらにその上、組織ぐるみで事故隠しまで行ったのであった。
原子力と核の関連
「もんじゅ」は今回の事故で致命的な欠陥を露呈した。運転を再開するにしても、長期の時間が必要であろうし、仮に再開されたとしても、その後また事故に遭遇するであろう。おそらくはそのあげくに欧米各国がそうしたように日本も高速増殖炉開発を断念することになると私は思う。
しかし、そう簡単に油断することもできない。何故なら、この世界には、どうしても高速炉(この場合は、「増殖炉」でなくても良い)を必要としている人たちがいるからである。これまで多くの日本人は、「核」と「原子力」はあたかも違うものであるかのように思いこまされてきた。しかし、もともと原子炉はエネルギーを生み出すために開発されたのではなく、核兵器材料、プルトニムを生み出すためにこそ開発されたものなのである。日本で「平和利用」と信じられている原子力発電が稼働すれば、原子炉の中には自然にプルトニウムが蓄積してくる。つい先日まで、日本は米国の尻馬に乗って、朝鮮民主主義人民共和国がプルトニウムを生み出したと非難していた。しかし、日本はすでに三〇年も前にプルトニウムを手にしていたし、仮に朝鮮がいま手にしていたとしても、その最大予想量の千倍、万倍にも相当する量のプルトニウムを日本は「平和利用」を口実にすでに手にしている。ただ、日本の原子力発電所から得られるプルトニウムは燃えるプルトニウムの割合が七〇%程度しかなく、優秀な核兵器製造には向いていない。そこで、高速炉が登場する。何故なら、高速炉が生み出すプルトニウムは燃えるプルトニウムの割合が九八%というように、超優秀な核兵器材料となるのからである。
「プルトニウムは超危険な毒物である。高速炉は超危険な原子炉である。エネルギー問題の解決にもたいして役立たない。それでも、優秀な核兵器を手にするためには、何としても高速炉を動かさねばならない」と考える人たちは、いつの時代にも、どこにでもいるのである。
文殊の知恵
宇宙の歴史は一五〇億年、地球の歴史は四六億年、人類の歴史は四〇〇万年といわれている。その人類が地球上で、他の生物を押し分けて繁栄してきた原因は、火と道具が使用できるようになったからである。したがって、人類の特徴はまず一番にエネルギーの使用にあるし、人類が生きるためにはいずれにしても何らかのエネルギーが必要である。しかし、二〇世紀といわれるこの百年で人類が使ったエネルギーは、四〇〇万年の人類の全歴史で使ったエネルギーの六割を超えるのである。さらに、たとえば日本の場合、この百年の間にエネルギー消費量は百倍に増加し、今では国土全体に降り注ぐ太陽エネルギーに比べて、約二〇〇分の一のエネルギーを人為的に使うようになっている。もしこのままのスピードでエネルギー消費を拡大していけば、二一〇〇年には、太陽エネルギーにほぼ匹敵するエネルギーを使うようになる。その時点ですでに人類の生存可能環境が日本に残っているとは考えにくいが、仮りに、その時点ではまだ生存できたとしても、さらにその百年後には、太陽エネルギーの百倍のエネルギーを使うことになってしまう。
地球の歴史の中では、たくさんの生物種が生まれては滅んできた。それが生命あるものの宿命でもある。人類もまた四〇〇万年前に発生した一生物種であるが、人類のこれまでの歴史を一日とすると、二〇世紀という一〇〇年は一日の終わりのわずか二秒にしかならない。その最後の二秒で、人類は自らの絶滅の道を急速に転げ落ちていっている。
高速増殖炉は人類に厖大なエネルギーを提供すると宣伝された。しかし、思惑通りに開発が進んだとしても、それが供給できるエネルギーは高々石炭に匹敵する程度でしかない。その上、一方で、核兵器の脅威がますます増大する。おまけに、人類にとっての真の課題は、際限のないエネルギー供給ではなく、エネルギー中毒からいかに抜け出すかにある。人類は自らを「万物の霊長」と名付けたが、人類は自らの愚かさのために、近い将来絶滅する瀬戸際にいるのである。
「もんじゅ」という名前は仏教の文殊菩薩から取られたという。文殊菩薩は知恵を象徴する菩薩である。人類が絶滅したところで、地球の運行は露ほどにも変わらないし、宇宙にとっては、まったく取るに足らないことであろう。しかし、今を生きる人類にとって、「もんじゅ」の事故から、せめて人類としての叡知を汲み取るべきだと私は思う。
本稿では、高速増殖炉、および「もんじゅ」の事故そのものについては、詳しく触れなかった。それらについては、私の同僚である小林圭二さんの優れた報告がある。興味のある方は、以下の本、雑誌をお読みください。
「高速増殖炉もんじゅ:巨大核技術の夢と現実」、七つ森書館(一九九四)
「もんじゅ」のナトリウム火災、技術と人間、一九九六年、一・二月合併号、十六~四一頁
消せない放射能 ~65年後の警鐘~
http://dai.ly/x16r9fh
消せない放射能 ~65年後の警鐘~/NNNドキュメント
福島第一原発事故の原因究明が一向に進まない中、早くも再稼働の動きが加速しようとしている。放射能による被害は、実態が明らかになるまでに長い時間を必要とするが、その一例が北の大地にある。ロシアでは、半世紀以上前に放射能災害が起きていた。高レベル放射性廃棄物を投棄した川の周辺では、手足の無い子供、膨れ上がった頭部、巨大なコブ…悪夢が世代を超えて猛威を振るっている。政府は汚染された川沿いの村を閉鎖、古い建物を取り壊して地中に埋め、放射能を封じ込めようとした。しかし、その努力を嘲笑うかのように、今もあちらこちらで強い放射線が測定される。収束への道程は、見えていない。原発回帰の状況下、放射能災害の現実を見つめる。
ナレーター:石原 良
ウラル核惨事 - Wikipedia
隠された半世紀・ウラルの核汚染 - 森住 卓
http://www.morizumi-pj.com/ural/ural.html
Dark Circle アメリカの放射能汚染
http://www.youtube.com/playlist?list=PL805BF354143FB488
プルトニウムや核廃棄物の危険性がテーマのドキュメンタリー作品。放射能による人体への影響などのレポートがメインだが、中でも、放射能で汚染されていた土地に住む一家の一人娘の身にふりかかった悲劇などには胸を抉られるような衝撃がある。
1982年製作 アメリカの放射能汚染 ドキュメンタリー
Sundance Film Festival, Emmy 入賞
プルトニウムという放射能とその被曝の特徴
2006年 7月 15日 小出裕章
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/Pu-risk.pdf
NHKスペシャル・世紀を超えて 戦争 果てしない恐怖 第3集「核兵器 機密映像は語る」(1999年放送)
http://player.youku.com/player.php/sid/XMjg1NjAyMjIw/v.swf
羊頭狗肉 使用済み核燃料 再利用の行方は その2 ラ・アーグ 六ヶ所村
http://youtu.be/CeyKCgUBrJ0
プルトニウム - アルファ線は体内で40μm内に10万個のフリーラジカルを生じ分子を切断する
http://youtu.be/QpjoGC1JgEI