なぜ4割の得票で8割の議席なのか?
(ラジオフォーラム#107)
http://youtu.be/rF1s5eO68O8?t=15m27s
15分27秒~第107回小出裕章ジャーナル
国内の使用済み燃料の行方「米国としてはその危険なウランを外国に出していないわけですから、引き取る義務もないし理由もないということで、引き取りを拒否するということになってきているわけです」
http://www.rafjp.org/koidejournal/no107/
景山佳代子:
1月の小出裕章ジャーナルは、ずっと特集シリーズでお送りしているんですが、1月のテーマは「原発はなぜいけない?」です。本日の特集シリーズ「原発はなぜいけない?」というのは、廃物の処理ができないということについて、小出さんに伺っていこうと思います。
小出さん:
はい。まず、景山さんにお礼を言いたいのは景山さん今、放射性廃物という言葉を言って下さってとてもうれしいです。景山さんはもちろん、ご承知の上でその言葉を使って下さったんだと思いますが、聴いて下さってる方にもう一度確認をしておきたいのですが、 普通は皆さん放射性廃棄物という言葉を使うのです。そして、廃棄物というのは「ダメになったから棄てる物」と書くのです。
普通の例えば家庭のゴミとかは、生ゴミだろうと肉だろうが環境に捨ててしまえば、いずれバクテリア等が分解して始末をしてくれるわけですけれども、放射能に関しては自然には全く分解作用も浄化作用もありませんので、放射能のゴミに関する限りは捨ててはいけない。だから、私は廃棄物ではなくて廃物と呼ぶようにしてきたのです。
このラジオを聴いて下さってる方々も、放射能のゴミというのは特別なゴミだということを忘れないでいて頂きたいと思います。
景山:
そうですね。その原発というものを稼働させる限り、現在の科学では処理できない放射性廃物というのを抱え込むことになるんだ。そういうのをまざまざと実感させられてるんですけれど、実は放射性廃物っていうのは原発以外の施設からも発生してるんですよね?
小出さん:
そうです。
景山:
はい。今回、ちょっと伺いたいなと思ってるのが、小出さんが今お勤めしてらっしゃる京都大の研究用実験炉も含めて、日本で現在14基、研究原子炉が運転されているというふうに伺ってるんですが。
小出さん:
はい。そういう所でももちろん、原子炉を動かしてるわけですから、核分裂生成物はできますし、さまざまな実験をすることで放射能のゴミができて、そのお守りをどうするのか、どうできるのかということでずっと苦しんできているという歴史です。
※研究機関や医療機関から発生する放射性廃棄物の処分
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2008pdf/20080401007.pdf
私自身も京都大学原子炉実験所の中では放射能のゴミのお守りをするという部署におりまして、なんとか放射能を環境に漏らさないようにして、ずっと仕事を続けてきた人間です。なんとかこれまでは、福島のような大きな事故は起こさないできましたけれども、これからほんとにゴミの始末がどうできるのか、頭の痛いことになってしまっています。
景山:
そうですね。こうした研究炉でも使用済み燃料というのはたくさん出てると思うんですけど、これまではアメリカに引き渡されていたということを小出さん、以前お話して下さってたかと思うんですが、ところがこれ、2019年5月以降はこの契約延長されない可能性があるというふうなことを提言の方で見かけたんですがけれども、この場合、まず研究炉での使用済み燃料がもしも今後アメリカが引き取らないということになったらば、どういうふうに行っていくことになるんですかね?
小出さん:
大変困るわけです。ですから、京都大学原子炉実験所としても、使用済みの燃料を抱えたままではとても難しいだろうということで、とにかく米国が引き取ってくれるまでは、まずは運転をしたいと希望しているわけですし、米国との交渉で、米国が引き取ってくれる期間というものがもし延ばしてもらえるのであれば、まだ更に何年かは運転できるだろうということを期待しているという、そういう状況です。
京都大学原子炉実験所から使用済み燃料を貝塚港にむけて輸送
景山:
突然、これアメリカはなぜ契約延長をしないという判断をされたとか、なんかそういう理由ってあるんですかね?
小出さん:
もともとですね、例えば京都大学実験所の原子炉というのは米国が造った原子炉なのです。日本が自分で造れたわけではなくて、米国が造ってくれた。そして、燃料も米国がくれたという、その自分が造った原子炉用の燃料を米国が提供してきたということなのですけれども、その燃料は、例えばうちの原子炉の場合には93%濃縮ウランというウランを使っていまして、原爆材料そのものなのです。
それを原子炉の燃料に使っていたわけですが、もうこれ以上原子炉の中では燃やせないという状態になっても、なおかつ、核分裂性のウランが70%ぐらい燃料の中に存在しているので、もし、原爆を造ろうとすればできてしまうという、そういうウランなのです。だから米国としては、そんな物を日本には置いとくわけにはいかないから、とにかく返せと言って、そういう契約だったのです。
しかし、途中で米国がそのことの危険性に気が付きまして、もう海外には93%高濃縮ウランというような物を提供しないということにしまして、京都大学原子炉実験所もそれまで使っていた燃料が全て尽きてしまったという状態に、十数年前に陥ってしまったのです。
ですから、もう米国としては、その危険なウランを外国に出していないわけですから、引き取る義務もないし理由もないということで、引き取りを拒否するということになってきているわけです。
景山:
なんだかこう、すごくアメリカという国の政策に左右されながら、日本の原子力っていうのが進んできたという感じが今、伺っていると非常に…
戦略国際問題研究所(CSIS) 《゚Д゚》
小出さん:
おっしゃる通りです。原子力発電所の原子炉もそうですし、研究用の原子炉も全て日本というこの国では、米国におぶさってきたという歴史です。
景山:
そうですね。そうして私達が突然、その大量に残されていく放射性廃物っていうのを、じゃあこれからいきなり自分達でどう引き受けて処理したらいいのかっていう、こういう問題が、今後突き付けられていくという、そういう状況なんですね?
小出さん:
そうです。いずれにしても研究炉にしても、長い年月動かすことはこれからできませんし、原子力発電所にしたってどっちにしてもウランは枯渇してしまって、数十年の後にはもう動かなくなるわけですけれども、その後には膨大な放射能のゴミが残されてしまって、そのゴミのお守りを何百年、何千年、あるいは何十万年と引き受けなければならないということになるのです。
景山:
そうですね。では、今日も本当にありがとうございました。
小出さん:
こちらこそ、ありがとうございました。
放射性廃棄物:小出裕章「無毒化する力は人間にはありません」
http://youtu.be/qV1QKdvYQY4
「日米原子力協定」 遠藤哲也 一橋大学客員教授 2012.10.4
http://youtu.be/UMf4B4R2COE
「日米原子力協定のゆくえと原発ゼロ政策」のテーマで、日米原子力協定締約交渉で日本代表だった遠藤哲也・一橋大学客員教授(元原子力委員会委員長代理、元ウィーン代表部大使)が話し、記者の質問に答えた。
原発と原爆 日本の原子力とアメリカの影(1)
http://youtu.be/XBGkaXLHNRQ
原発と原爆 日本の原子力とアメリカの影(2)
http://youtu.be/ZTHVD5gQ1js
第1章 2011年 福島
福島第一原発事故をめぐる混乱の中で、ある不可思議な事実がある。
3月17日(※2011年)、自衛隊ヘリ部隊が行った空中放水。
被ばくリスクが非常に高い中で、なぜほとんど効果がなかったとされる“英雄的犠牲”は行われたのか?
オバマ大統領との電話会談の直前、“命がけ”の放水が決行された真意とは?
背後にあったのは、事故処理をめぐるアメリカ側のいらだちと疑念。情報の混乱とアメリカの圧力の中、迷走する官邸の姿だった。
日米間の調整業務に当たった細野豪志は、我々の取材にその時の危機感について「日米同盟の危機だった。歴史を60年以上戻すことになりかねない」と語り、菅直人は「責任を放棄した時には、日本は当事者能力をなくす」と振り返った。
第2章 1945年 広島
戦後68年、日本の原子力問題はアメリカの核戦略と無縁ではいられなかった。核をめぐるアメリカの影。その原点は、68年前の終戦直後の日本に遡る。
原爆投下から1ヶ月、マンハッタン計画の副責任者ファレル准将はこう言明した。
「残留放射能に苦しんでいる者は皆無である」
そして「プレスコード」の名の下に、GHQによる徹底した情報統制が行われた。
以来、現在に至るまでアメリカも日本も、「黒い雨」「死の灰」など残留放射能による健康被害を全面否定し続けている。
今回の取材で、アメリカの核政策を担うエネルギー省の元上級政策顧問は、それが欺瞞であり「核開発計画を継続、推進するための国家戦略」だったことを認めた。
第3章 1950年代 ビキニ-広島
さらに1950年代に入ると、ソ連との核開発競争の中で、アメリカは「原子力の平和利用」を打ち出した。
表向きは核兵器用に濃縮したウランを原発などに平和利用することだったが、米機密文書に書かれたもう一つの狙いは、西側同盟諸国に原子力技術を供与し、対ソ核包囲網を進めること。日本もその例外ではなかった。
そんな中、アメリカは被爆地・広島を「原子力平和利用」の宣伝ターゲットとして、「原子力平和利用博覧会」などを開催。一方、日米政治決着によってビキニ水爆実験による第五福竜丸の被ばくの事実を隠ぺいし、反米・反核の動きを抑え込もうとした。
その結果、唯一の被爆国日本は核の危険性に目をつむって「日米原子力協定」を締結、原発推進政策に突き進んでいく。
戦後、脈々と続いてきた原発開発と核兵器との密接な関係。1957年、東海村で原子の火が灯って以来、消えることのない“アメリカの影”。
福島原発事故で図らずも露呈した、原子力をめぐる知られざる日米関係を検証する。
そもそも原発は電気のためではなく、核兵器を作るために導入された
140203 岩上安身による小出裕章氏インタビュー
http://youtu.be/R5Ni4n13zP4
◆原発は電気のためではなく核兵器を作るために導入された◆
岩上安身「ジャーナリストの岩上安身です。私は今、京都大学の原子炉実験所に来ています。小出裕章先生にこれからお話をうかがいたいと思います。小出先生、よろしくお願いいたします」
小出裕章氏(以下小出、敬称略)「よろしくお願いします」
岩上「今、都知事選のまっただなかで、そういう状況で発言をすることは少し控えたいと言っていらしたところに押しかけまして、本当に申し訳ありません。申し訳ないと思うんですが、どうしてもこのタイミングで、小出先生のお話をうかがいたいと思いました。
多くの人が、今回の都知事選の喧騒に飲み込まれてしまって、非常に重要なニュースを見逃しているのではないかと思います。それは、私にとって大変気になることなんです。その件について、ぜひ先生のご見解をお聞きしたいと思っています。
その重大なニュースとはいうのは、アメリカがプルトニウムの返還要求をしてきている、というものです。1月27日に共同通信が一報を流しまして、各紙がそれを載せました。我々は、これは大変なニュースなんじゃないかと思いまして、外務省に連絡したんですね。外務省の担当課は、否定はしないんです。まあいろいろ申し上げられないこともある、というように、ぼかしているんですけれども、否定はできないということは、事実なんだろうと思います。
文芸評論家で早稲田大学の教授の加藤典洋さんが、3.11以降に『死神に突き飛ばされる』という本を書かれて、その中に、「国策と祈念」という論文を書いていらっしゃいます。日本の原発の平和利用において、それとワンセットで、核の技術的抑止というものが目指されてきたのだということを指摘されています。
ところが、もしこのプルトニウムを返還しろということを言われたのであれば、日本の核開発の目的というのは水泡に帰す。これは実は大きな選択を迫られるというお話なんですね。そういう分析をされています。
核技術抑止論と言ったり、潜在的核保有論と言ったり、いろいろな言い方はあると思いますが、こういうことを近年、石破さんとか、あるいは安倍さん、麻生さんも、発言をされていると思います。
しかしこうなると、周辺諸国、とりわけ中国との関係において牽制するということはできなくなります。曖昧な戦略ができなくなる、ということです。そうなると、もう核兵器を持ってしまうか。それともまったく諦めるかという選択を迫られるのではないか。このように分析しているんですね。
こんなに脱原発の議論が都知事選絡みで盛り上がっているにも関わらず、この話題が全然議論の遡上にあがらないんです。
そこで、先生にお話をうかがいたいなというふうに思っております。日本の原発の平和利用と言っても、裏側に核燃サイクルと抱き合わせで、このような核兵器保有のための準備をし続けてきたというのは事実であり、そして、このプルトニウム返還要求が、そうしたものの断念を迫られる可能性があるという点について、どのようにお考えでしょうか?」
小出「日本という国は、原子力の平和利用というような言葉を作って、あたかも日本でやっている原子力利用は平和的だとずっと装ってきたわけですけれども、もちろんそんなことはありません。
ずいぶん前でしたけれども、野坂昭如さんが、技術というのは、平和利用だ、軍事利用だと分けることが出来るはずがないとおっしゃっていました。そんなものはないと。もしあるとすれば、平時利用と戦時利用だということでした。
平時に使っている技術でも、戦時になればいつでもまたそれが使える、ということです。日本が原子力をそもそもやり始めたという動機も、先程から岩上さんがおっしゃってくださっているように、核兵器を作る潜在的な能力、技術力を持ちたいということから始まっていました」
岩上「そもそも核保有が出発点であり、電気のためではなかった、と」
小出「もちろん、そんなのは違います。核兵器を作る力を持ちたかったということで、日本の原子力開発が始まっているわけですし、単に技術力だけではなく、平和利用と言いながら、原爆材料であるプルトニウムを懐に入れるということです。
そしてもうひとつは、ミサイルに転用できるロケット技術を開発しておかなければいけない、ということです。両方を視野に入れながら、科学技術省というものを作ったわけですね。今はなくなりましたけれども。
科学技術省は、原子力と宇宙開発をやるわけですけれども、まさに原爆を作るためのものです」
岩上「なるほど。ひとつの役所が、まるごとそのために生まれたようなものだと」
小出「そうです。日本人は、日本は平和国家と思っているかもしれませんけれども、国家のほうでは、戦略的な目標を立てて、原子力をやってプルトニウムを懐に入れて、H2ロケットやイプシロンなど、ミサイルに転用できるロケット技術を開発してきたんですね。
しかし、日本のマスコミは、例えば、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星を打ち上げると、ミサイルに転用できる、実質的なミサイルであるロケットを打ち上げたという。しかし、自分のところが打ち上げるH2ロケット、イプシロンについてはバンバンザイという、そんな報道しかしないわけですね。
もちろん北朝鮮だって、ミサイル開発と絡んでいると思いますけれども、同じように日本だって、軍事的な目標を見ながらやってきたわけです。
ただし、日本の思惑というものが貫徹できるかどうかということは、現状では、完全に米国が握っているんですね」
岩上「これは、日米原子力協定というもので、拘束されている、と。これはどういうものなのでしょう」
◆米国の属国だからこそ可能だった日本の原子力政策◆
小出「日米原子力協定では、米国の同意がなければ、核燃料をどう扱うかということすら、日本では決められないというようになっています。米国がどう考えるかということで、日本の原子力開発の動向が左右されているわけですね。日本は米国の完璧な属国ですよね。そうであるかぎりは、米国は日本に一定程度の自由を許してやるということになっているわけです。
原爆を作るための技術というのは、核分裂性のウランを濃縮するというウラン濃縮という技術。それからプルトニウムを生み出すための原子炉。それから、生み出されたプルトニウムを取り出すための再処理という三つの技術があります。
その三つが原爆を作るための技術です。そして、現在の国連常任理事国である米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の五カ国は、その三つの技術を持っているのですね。
三つの技術を持っていて、核兵器を持っているから、常任理事国として、世界を支配できるということになっている。その5カ国は、自分たちだけはその技術を持ってもいいけれども、他の国には、絶対持たせないということで、IAEAを作って、国際的な監視をするということにしたんですね。
ずっとそういう体制が続いてきたのですが、その核兵器保有国5カ国の他に、例えばインドとかパキスタンとか、あるいはイスラエル。朝鮮民主主義人民共和国は、私はまだ首を傾げていますけれども、まあまあ、実質的に核兵器を作ったとしても、例えば、インドは原子炉と再処理は持っていますけれども、ウラン濃縮技術は持っていない。パキスタンは、ウラン濃縮技術は持っているけども、原子炉も再処理も持ってないんですね。イスラエルはもう米国が容認してしまっています」
岩上「黙認という形ですね」
小出「そうですね。原子炉も持っているし、再処理も持っているわけですね。朝鮮民主主義人民共和国は、どこまで持っているのか私は分からないけれども、どの国も原爆製造三技術は持ってないのです。
ただし、核兵器保有国5カ国のほかに、世界で1カ国だけ、この三技術を持っている国がある。それが、日本なんですね」
岩上「なるほど。これは核燃料サイクルと深く結びついているわけですね」
小出「もちろんです。ですから、日本は核燃サイクルを実現して、原子力を意味のあるエネルギー源にするというようなことを言ってきているわけですけれども、実はそれはもう原爆と作るための技術を持ちたいという、そのことで来ているわけです。
日本だけがその三技術を持つことができたわけですけれども、それも日本が米国の属国であるから、米国がかろうじて、ウンと言ったという、そういう状態なのです。
でも、今のように安倍さんのような、私から見ると『この人、病気だな』と思うような人が出てきてしまって、世界情勢を見ることもできないわけですね。
増殖する原発コスト 廃炉後も電気代に転嫁
(東京新聞【こちら特報部】)2015年1月20日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2015012002000162.html
関西電力など電力四社が老朽原発五基を廃炉にする。問題は三百五十億円以上とされる廃炉費用だ。各社は原発稼働中に電気料金に上乗せして積み立ててきたが不足している。そのため、廃炉が決まって発電していない原発の廃炉費用も、電力消費者が負担する制度に移行するという。何ともおかしな新制度が、原発のコストの高さをあらためて浮かび上がらせる。
(沢田千秋、三沢典丈)
会計制度変更し負担押しつけ
廃炉の方向となっているのは、日本原子力発電の敦賀原発1号機(福井県)、関西電力の美浜原発―、2号機(同)、中国電力の島根原発1号機(島根県)、九州電力の玄海原発1号機(佐賀県)の五基。一九七〇~七五年に営業運転を始め、最も新しい玄海原発1号機も今年で稼働開始から四十年を迎える。
福島第一原発の事故後、二〇一二年の原子炉等規制法の改正などによって、原発の運転期間は原則四十年と規定された。二十年の延長が可能だが、安全対策には巨額の費用が必要だ。この五基は出力が小さく、費用をかけて運転期間を延ばしても利益を見込めない。電力各社はもっと早く廃炉を決めてもよかったが、踏み切れない事情があった。
会計上、廃炉と決まった原発の資産価値はゼロになり、減価償却の未償却分を特別損失として一括計上しなければならない。各社は五基について、少なくとも四十五年以上の運転期間を想定していた。経済産業省の試算では、廃炉前倒しで一基当たり二百十億円程度の損失を計上しなければならなくなる。経営の屋台骨を揺るがしかねず、二十~三十年の廃炉作業に支障を来す恐れもある。
経産省が電力会社を救済するために考えたのが、廃炉をめぐる新会計制度だ。廃炉決定後も原発の資産価値を認め、十年分割で損失を計上できるようにする。つまり、発電しない原発の廃炉費用も消費者に負担させるわけだ。
どういうことかというと、現在、電気料金は電力会社の発電コスト(原価)に事業報酬を加えて算出する総括原価方式が取られている。新会計制度になれば、原発の未償却分の特別損失と廃炉費用は発電コストと認められ、電気料金に上乗せされる公算が大き
京都大原子炉実験所助教の小出裕章氏は「問題がようやく目に見える形になってきた」と話す。「原発を止めても安全にはならない。放射能まみれの建物が残り、使用済み核燃料の処分には十万年、百万年かかる。どうやって廃炉にできるか、どれぐらいの金がかかるか全然分からないまま、政府と電力会社は一切を国民に知らせずにきた。どうにもならなくなり、国民に負担を回している」
二六年をめどに、電力の小売りが自由化され、発送電が分離されるが、廃炉費用はその後も付いて回る可能性が大きいという。経産省は「競争が進展する中でも(廃炉)費用回収を着実に行うため」として、全ての電力小売り会社が負担する送電網の利用料金に廃炉費用を上乗せする制度を検討している。風力や太陽光など再生可能エネルギーで作った電気を購入する消費者も、廃炉費用を負担することになる。
小出氏は「あたかも安いように言いながら原発を動かしてきた東電など電力会社に、責任を取らせるべきだ。太陽光発電を活用しようと、新たに生まれた送電会社にも廃炉の費用を払わせるとは、こんなぱかげた制度はない」と憤る。
交付金頼り脱却支援を
収入の66%が原発関連 佐賀・玄海町
廃炉によって、影響を受けるのは電力会社だけではない。原発が立地する自治体の経済にも大きな影響を与える。
廃炉の方向となった玄海原発1号機があるのは、佐賀県玄海町。人口約六千百三十人で、県内で最も人口が少ない自治体だが、原発マネーを背景に、一四年度一般会計当初予算は百億八千万円。原発関連の交付金と、原発の固定資産税が総額の66・8%を占めている。
発電実績で金額が決まる電源立地地域対策交付金は福島の原発事故後、停止中の原発にも一律で交付されている。町財政企画課の試算によると、一五年度の同交付金は十七億三千六百万円の見込み。1号機が廃炉になると、翌一六年度は十三億一千三百万円と、約四億二千万円減る。県から市町村に配分される県電源立地地域対策補助金や核燃料税交付金、固定資産税も減ることになるだろう。
地元の唐津上場商工会は以前、原発一基が地元経済に与える金額を試算した。原発作業員の宿泊費と食費で年間四億七千万円、地元雇用の作業員の給与が約四億八百五十万円。西尾達也事務局長は「今は原発の安全対策工事などがあるが、廃炉になればこれもゼロになる。地域の経済全体に悪影響が出かねない」と心配する。
玄海原発は4号機まであるが、2号機も二一年に稼働四十年を迎える。「町の財政は立ち行かない。国の支援が必要だ」という地元の声を受け、経産省は一五年度当初予算案で、原発の廃炉に備え、立地自治体の中小企業支援など向けの地域振興費を、前年度当初比から十五億円増の二十三億円に大幅に増やした。
だが、原発が立地自治体にもたらす巨額な資金と比べると見劣りする。
資源エネルギー庁が示すモデルケースでは、出力百三十五万銘の原発一基の建設で、初期対策交付金として、建設着工の三年前から運転開始までの十年間、毎年五億二千万円が支給される。
着工した年からは、促進対策交付金が年間二十四億三千万円、原発施設等周辺地域交付金が年三十九億七千万円上乗せされる。運転開始までの七年間、自治体は何もしなくても毎年計八十億~四十億円を受け取る計算だ。
稼働開始後も、毎年二十億円前後が交付される。運転開始後四十年までの交付金の合計千三百八十四億円が、国民の税金を原資として支出される。
原発を受け入れた自治体に、二基、三基と原発が増えていくのも、この巨額の原発マネーが大きく関わっている。原子力小委員会は昨年十二月の「中間報告」で、老朽原発のリプレース(建て替え)にも言及したが、今後も原発マネーで自治体に建て替えを容認させるのか。
京都大大学院の岡田知弘教授(地域経済学)は「実体経済を見ると、多くの自治体で原発依存度はそれほど高くない」と指摘する。福島の原発事故の後、各地の原発立地自治体を訪ね歩いたところ、原発に依存しない地域づくりを目指した活動が各地で見られたという。
岡田氏は「玄海町では、原発関連の宿泊者が見込めなくなった町内の民宿組合は、小中学生のサッカーなどの合宿を誘致し、地元の食材を使った食事を提供していた。地域の持続的な発展を目指していくのなら、国はリプレースなどより、むしろこうした自発的な試みを支援し、伸ばしていく必要がある」と話している。
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小出裕章先生:原子力発電所の原子炉も、研究用の原子炉も全て日本は、米国におぶさってきた
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