いま、新聞ジャーナリズムが危ない
(ラジオフォーラム#101)
http://youtu.be/Vr4jWgi8Ooo?t=15m8s
15分8秒~第101回小出裕章ジャーナル
福島原発は今/汚染水対策と除染について「現在、放射能で汚れた場所に人々が捨てられてしまっているわけで、その人達の被ばく量を減らすということはなんとしてもやらなければいけないと思います」
http://www.rafjp.org/koidejournal/no101/
景山佳代子:
福島の原発事故からもう3年半以上が経過して、とてもアンダーコントロールとは言えない状況なんですが、12月と来年1月の小出裕章ジャーナルでは、特集シリーズをお送りしていこうと思っています。12月は「福島原発の今」、1月は「原発はなぜいけない?」というふうになっています。本日の特集シリーズは「福島原発の今」で、汚染水対策と除染対策について特にお伺いしていきたいなと思ってるんでよろしくお願いします。
まず汚染水対策なんですけれども、こちら小出さんずーっと汚染水については「難しい」ということをおっしゃっていましたので、改めてっていうふうにはなるんですが、まずALPS(アルプス)の稼働なんですが、このアルプス10月から本格稼働したということなんですけれど、このALPSっていう物のその除染の現状と課題というのをちょっと伺っておきたいなと思ったんですがいかがでしょうか?
小出さん:
はい、汚染水と皆さんが呼んでいるもの、それは放射能で汚れているという意味ですよね。
景山:
はい。
小出さん:
これまで東京電力も国も放射能で汚れた水の中からセシウムというただ一種類の放射能だけ取り除いてきたのですけれども、セシウム以外にもたくさんの放射性物質がありますし、特に重要なのはストロンチウムという放射性物質ですが、それはこれまでは全く取り除けなかったのです。それを何とかして取り除きたいということで、アルプスという装置を設置しようとしたわけですが、残念ながらほとんどまともに動いていません。
一番問題なのは現場。福島第一原子力発電所の敷地の中が、もう放射能の沼のような状態になってしまっていまして、
どんな装置を作るのも、どうやってその装置を動かすかもすべてが被ばくを伴ってしまうということで、安全な場所でゆっくりとキッチリとした装置を組み立てて、それをゆっくりと被ばくもしないまま運転できるというような状況ではないので、次々と新しいトラブルが出てきてしまって、それを乗り越えるためにもまた被ばくをしてしまうという、そういう環境なのです。
私はもちろんアルプスが期待通りに動いてほしいと願いますけれども、そうなることもとても難しいという、そういう状況なのです。ただし、ALPSが動いたとしても、取り除けない放射能というのはありまして、例えばトリチウムという名前の放射性物質はALPSは動こうと、他の浄化装置が動こうと、全く取り除けません。
ですから、結局そのトリチウムに関しては、何の対策もとりようがありませんので、いつの時点かであれ「海に流す」と必ず彼らは言い出します。
景山:
じゃあ、その結局は取り除けなかった放射能物質っていうのが、含まれたままの水が海水に出るっていうことになりますね?
小出さん:
そうです。はい。
景山:
あと、もうひとつ汚染水についてなんですけれども、東電が海側のトレンチ、配管等が通る地下トンネルにたくさん溜まっている高濃度汚染水を除去しようという、こういう計画を立てていたんですが、結局これ建屋からの汚染水流入が止められなくって、東電は汚染水の完全除去っていうのは断念しましたっていう報道がありました。東電はセメントを流し込んで固めようという案を出してるんですけれども、こういった案の実行性というか問題点とかあれば、また教えて頂けますか?
小出さん:
はい。ここ1年近く東京電力と国が何をやろうとしてきたかと言うと、トレンチと呼んでいる地下のトンネルがあるのです。そのトンネルの中を配管が走っていたり、電気の配線が走っていたりするわけですけれども、そのトンネルの中に、2011年3月の段階ですでに1万トンもの放射能汚染水が溜まっていたのです。
2011年4月2日
私はもうその段階で、この汚染水をなんとかしないと、どんどん海へ流れていってしまうので、その段階でその汚染水だけはとにかく巨大タンカーにでも移して、1万トン分の処理をすべきだと発言をしたのですが結局、それを東京電力も国もやらないままきてしまったのです。これもまた1年程前になってとにかくやらなければいけないということで、トレンチの部分を遮断しようという作業を始めたのです。
どうやって遮断するかと言うと、トレンチの一部を凍らせて、原子炉建屋タービン建屋の側と地下のトンネルを隔離しようとしたのですけれども、いくらやってもそこに氷の壁を作ることができないということで、彼らの計画が失敗してしまったということになりました。
これからは、今景山さんおっしゃって下さったように、コンクリを流し込んで、順番に汚染水を少しずつ少しずつ抜き取っていくというやり方に変えると言ってるのですが、多分それしか私もないと思います。ただし、汲み出した汚染水というのは、強烈に放射能で汚れていますので、それをじゃあこれから一体どうするかということもこれから考えなければいけません。
景山:
なるほど。では、次に今度は除染対策のことについて伺っていきたいんですけれども。除染についても、もうほんとにずーっと小出さんは難しいということをちゃんと発信してくださってたんですが、相変わらず、復興予算というところが除染に対しての巨額の予算が注ぎ込まれていて、これ実際どれぐらい効果があるんだろうかっていうふうに思うんですが、除染を効果的に実施する方法っていうのはあるんでしょうか?
小出さん:
まず除染という言葉ですが、いわゆる漢字で書く除染はですね、汚れを除くと書くのですね。しかし、汚れの正体は放射性物質、放射能なんです。放射能、放射性物質というのは、人間がどんなふうに手を加えても、消すことができないものですので、言葉の本来の意味で言えば、除染というものはできないのです。
景山:
そうですね。はい。
小出さん:
じゃあ、何ができるかと言うと、人々が生活している場の汚染をどこか別の場所に移すということであって、私はその汚れを移すという意味で「移染」という言葉を使っています。できることは唯一それなのです。
景山:
ですよね。はい。
小出さん:
しかし、今現在、放射能で汚れた場所に人々が捨てられてしまっているわけで、その人達の被ばく量を減らすということはなんとしてもやらなければいけないと思います。私は本来ならば、放射能で汚れた場所から人々を避難させる、移住させるということが一番いいと思いますし、国家の責任としてやるべきだと思っているのですが、国家がそれをやらないで、人々を汚染地帯に捨てている限りは、人々の生活範囲から汚れを移動させるということだけはやらなければいけないと。
今、福島を中心にして、1万4千平方キロメートルという広大な地域が放射線管理区域という区域に指定しなければいけないほどの汚染を受けているのです。放射線管理区域というのは普通の人々は立ち入ることすら許されない。私のような特殊な人間でも、そこに立ち入ったら水を飲むことも許されない。つまり、生活してはいけないという、そういう場所になってしまっている。家も汚れている、庭も汚れている、道路も学校も公園も田畑も林も森も山も汚れているのです。もちろん、そんな所を全部移染するなんていうことはできる道理がないのですけれども。
でも、人々が毎日生活している家であるとか学校であるとか、そういう所だけは何としてもその移染しなければいけないと私は思います。あまり、効果があるとは言えませんけれども、でもやらざるを得ないと思います。
景山:
その私達が考える以上に、本当に難しい問題をずっと次々に突き付けられているというのが現状かなというのを改めて確認させてもらいました。小出さん、今日もどうもありがとうございました。
小出さん:
いえ、こちらこそありがとうございました。
小出裕章:高濃度汚染水漏れについて:遮水壁=地下ダム
http://dai.ly/x12jom7
何か皆さん今になって汚染水問題ということが起きてきた、あるいは大変だと思われてるようなのですけれども、私からみると何を今更言ってるんだろうと思います。
事故が起きたのはもう既に二年数か月前の2011年3月11日だったのです。
それ以降汚染水というのは敷地の中に大量に溜まってきまして3月中にもう既に福島第一原子力発電所の敷地の中に10万トンの汚染水が溜まっていました。
コンクリートというのは元々割れるものです。
割れのないコンクリート構造物なんていうものはありません。
おまけにあの時には巨大な地震でそこら中が破壊されたわけで原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ、ピット、立て抗にしてもコンクリートにそこら中にひび割れが生じていたのです。
ほとんど目に見えない建屋の地下であるとか、トレンチ、ピット、要するに地面の所に埋まってるわけですから見えない所でそこら中で割れて、そこら中から漏れている。
当時もそうだし、二年経った今だって必ずそうなのです。
私はとにかくコンクリートの構造物から漏れない構造物に移すしかないと考えました。
私が思いついたのは巨大タンカーでした。
10万トン収納できるようなタンカーというのはあるわけですから10万トンタンカーを福島の沖まで連れて来て福島の敷地の中にある汚染水をとにかく巨大タンカーに移すという提案をしました。
でもまたそれも次々とコンクリートの構造物に汚染水が溜まってくるわけですから何とかしなければいけないと思いまして私はその巨大タンカーを東京電力柏崎刈羽原子力発電所まで走らせる
柏崎刈羽原子力発電所というのは世界最大の原子力発電所でそれなりの廃液処理装置もあります。
宝の持ち腐れになっていたわけで柏崎刈羽までタンカーを移動させてそこの廃液処理装置で処理をするのがいいという風に3月末に私は発言した。
そういうことはやはり政治が力を発揮しなければできないのであって政治の方々こそそういうところに力を使って下さいと私はお願いしたのですけれども、とうとうそれもできないまま何も手を打たないままどんどん汚染水が増えて今現在30万トンにもなってしまってるというのです。
(3.11からもう二年数か月経ってるわけですけれども、あの時にもしスタートさせていたら今もう間に合ってるんじゃないか)
もちろんです。
また次に10万トン汲み出すということもできたでしょうし現在直面している事態よりもはるかに楽になっていたはずだと思います。
そういう意味では政府と東京電力が無能だったということだと思います。
土壌汚染 福島市・郡山市の深刻度 矢ケ崎克馬・琉球大名誉教授に聞く
(東京新聞【こちら特報部】)2011年9月22日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2011092202000038.html
福島第一原発事故で放射能に汚染された福島市や郡山市の土壌濃度は、チェルノブイリ原発事故で健康被害が続出した地区に匹敵する-。内部被ばくに詳しい矢ケ崎克馬・琉球大名誉教授(67)は、先月30日に文部科学省が発表した詳細な土壌汚染マップを基に両事故の汚染度を比較した。その結果、「子どもら住民の健康被害が予想される」として、学校疎開を含めた被ばく軽減対策を最優先に取り組むよう訴えている。
(小倉貞俊)
「福島の汚染状況は、チェルノブイリ並に深刻。つらくても、まずそれを認識してほしい」
原水爆禁止日本協議会の会議を終えた矢ヶ崎氏は、東京都内で資料の束を手に話し出した。
文科省の土壌汚染マップは、6~7月、福島第一原発から100キロ圏内の約2千2百地点で、5カ所ずつ地表5㎝の土を採取し、放射性セシウムの濃度を分析したもの。
このうち、福島市で94地点、郡山市で118地点を測定し、セシウム137(放射能は約30年で半減)濃度の1平方メートル当たりの平均値は、それぞれ16万1千ベクレル、10万ベクレルだった。
矢ヶ崎氏は、この数値と、1986年に事故が起きたチェルノブイリ原発から110~150キロ西のウクライナ・ルギヌイ地区の汚染状況とが「放出された核種の成分分布の違いはあるが、酷似している」と指摘する。
同地区での放射能災害の研究は、京大原子炉実験所の今中哲二助教が編集した国際共同報告書で紹介されている。
同国では、汚染濃度別に三つのゾーンに区分。
ベクレル換算で、1平方メートル当たり55万5千ベクレル以上が「移住義務」、55万5千未満~18万5千ベクレルが「移住権利」、8万5千未満~3万7千ベクレルが「管理強化」となる。
ここで土壌汚染マップを見ていただきたい。
福島、郡山がある「中通り」に点在する青色が1平方メートル当たり60万未満~30万ベクレルで、一番多い群青色が30万未満~6万ベクレルの地点を示す。
ちなみに、みどりや黄、赤色はより汚染度が高い。両市とも、ウクライナに当てはめると、「管理強化」と「移住権利」のゾーンにあてはまる。
次に「管理強化」の地点数を比べてみると、ルギヌイ地区が85%(以下、文中は四捨五入)に対して、福島市は56%、郡山市は59%
そして「移住権利」では、同地区の13%に対して、
福島市は31%、郡山市は14%と、高汚染の地点数では上回る。
ただ、汚染が比較的に低い地点は郡山市が27%と多い。
矢ヶ崎氏は「ルギヌイ地区の健康被害を分析すれば、福島市で将来、何が起きるか予想できるはずだ。」と強調する。
甲状腺疾患 増加の懸念
では、同地区ではどんな現象が起きたのか。まずは子どもの甲状腺への影響だ。事故直後は、100人に1人の罹患率だった甲状腺の病気が、9年後には10人に一人までに増加。通常は10万人当たり数人とされる甲状腺ガンは、1000人中13人にまで拡大した。「いずれも5,6年後から発症が急増している。福島でも、必ず起こりうることだと申し上げたい」
さらに、同地区の病院の全患者に免疫力の低下や感染症の長期化などが確認され、90~92年の死亡率を事故前の85年と比べると、死期は男性で約15年、女性で5~8年早まっていた。
「棄民政策」やめて
内部被ばく無視の国際基準
矢ヶ崎氏は、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める一般人の年間被ばく線量の限度「1ミリシーベルト(自然放射線量を除く)以下」にも危惧を強めている。
同地区の管理強化ゾーンは、被ばく線量が、1.59~0.83ミリシーベルト。
つまり、ICRPの基準ライン上で多くの病気が発症していることから、「内部被ばくを無視しており、基準自体が疑問だ」
その背景について、「核戦略と原子力利用を推進してきた米国の存在がある」と続ける「原発を運営する側の立場を優先させ、人の健康を後回しにしている。日本の科学者も米に追随して、放射線の健康被害を隠ぺいする工作に加わってきた。」
チェルノブイリ事故でも同様だ。
「数々の健康被害が報告されながら、被害を極めて少なく見せようという動きがまだ主流を占めている。」
矢ヶ崎氏が典型的な例とするのは、国際原子力機関(IAEA)の依頼を受けた国際諮問委員会の報告だ。その中では、「住民は放射線が原因と見られる障害を受けていない。
悪いのは、放射能を怖がる精神的ストレスだ」と述べられていた。
ICRPが、「100ミリシーベルト以下では健康被害へのデータがない」との立場をとっていることや、国がICRPの勧告に従い、年間被ばく量の限度を20ミリシーベルトにしようとしたことについて、「到底許し難い。放射能の犠牲者を意図的に隠しながら、今も生み出している」と切り捨てた。
こうした怒りは、どこから来るのか。
長野県松本市の出身で、物理学を学ぶため広島大大学院に進学。被爆者と接して平和への思いを深め、原爆の健康被害を認めようとしない国の姿勢に疑問を持った。琉球大の教授だった2004年から、原爆症認定集団訴訟を支援。内部被ばくについて、二度証言に立ち、一審、二審の19回の判決全てでの勝訴につながった。
学校疎開の訴訟を支援
矢ヶ崎氏は、今、新たな訴訟に力を貸す。6月に郡山市の児童・生徒と親たちが、同市に学校ごと疎開する措置を求める仮処分を福島地裁郡山支部に申請。その親たちから要望を受け、9月上旬に冒頭の内容をまとめ、意見書として提出した。
同支部は意見書を受けて、審尋内容の見直しを表明し、結審は先に延ばされた。矢ヶ崎氏は、「お母さん方は血のにじむような思いで暮らしている。その努力で日本の子どもたちが守られていることを、忘れてはいけない。」と訴える。
収穫の秋を迎えた。ウクライナでは汚染食品への警戒を怠った人も少なくない。国は、暫定規制値を超えた食品の出荷を禁じているが、「規制値以下ならただちに健康に影響はない」という姿勢だ。
「政府が生産者と消費者を分断させているようなもの。今の方針では被ばくし続ける」として、矢ヶ崎氏は提言をする。「汚染された土地の産物を売ってはいけない。食べてもいけない。汚染食品は、政府が買い上げ、生産者の生活を保障すること」また、田畑が汚染されたため農業を離れざるを得ない生産者には「被災地以外の休耕田、耕作放棄地を一時的に貸すなどの仕組みもあっていいのではないか」。
今後、予測される健康被害を前に、健康制度の充実と 医療的な保障制度づくりも急務という。「国はチェルノブイリ事故や原爆訴訟が何であったのかを受け止め、学んで改めてほしい。
このままでは、『棄民政策』といわれても仕方がない」
デスクメモ
「原発事故後の対応は憲法違反。なぜ問われない」A君は憤る。福島県民の年間被ばく限度値は当初「二○ミリシーベルト」。自主避難者への冷遇、食品暫定規制値の高さ、情報隠し…。「主権在民は一体どこ?」。主権は国民にあると日本国憲法前文で宣言するが、「主権在官か、在政、在電の国さ」が耳に残る。(呂)
http://www.daysjapan.net/bn/1406.html
総選挙・原発問題の後景化に憤る福島の被災者
(東京新聞【こちら特報部】)2014年12月11日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014121102000168.html
耐え忍べば、いつか春が来るはず。しかし、そうした期待にも限界はある。福島原発事故で被災した少なからずの人びとの思いだ。今回の衆院選では、与党はもとより野党第一党も原発問題に腰を引いている。事故から間もなく四年。「風評被害の払拭(ふっしょく)」という標語も、事故の風化を促している。だが、事故収束も被災者の生活再建もいまだに見通せない。今回の選挙を被災者らはどんな思いで見つめているのか。
(榊原崇仁)
除染・ハコモノ
真の復興と別
農地が汚染ごみ置き場へ
「頭の中を占めているのは先祖代々の農地をどうするかということ。いまのままじゃ、荒れ放題になるだけだし…」
居住制限区域の福島県飯舘村から福島市に避難する市沢秀耕さん(六〇)は、苦々しい表情を浮かべた。
市沢さんは飯舘村で農業を営んできた家の六代目。二・五ヘクタールの田んぼと一・五ヘクタールの畑を代々引き継いでおり、村内では比較的大きな農家だったという。
自身は福島市内の農業高校を卒業後、島根大農学部に進学。田舎暮らしに抵抗を感じて静岡市内の建材メーカーに勤めるも、親の説得で帰村。村役場に勤めながら農業に従事した。
次第に、一度は離れた古里に思いを強めていく。
「自分を含めて同年代の若い職員は皆、生まれ育った飯舘村にプライドを持てずにいた。『山の中にある過疎の村』と見られていたから。『これからの村をどうにかせんと』と喧々諤々(かんかんがくがく)の議論をしていた」
デスクワーク中心の村役場は三十八歳で退職。農業を生活の中心に据えつつ、村内唯一の喫茶店「椏久里(あぐり)」の経営を始めた。「アグリカルチャー(農業)」にちなんだ命名だ。
自ら収穫したブルーベリーのケーキに、東京の老舗「カフェ・バッハ」から仕入れるコーヒー。人口わずか六千人の村で「行列ができる店」となった。
充実した日々を一変させたのが福島原発事故だ。
市沢さんは村が二〇一一年四月に計画的避難区域に指定されると、妻の美由紀さん(五六)や同居する母親(八四)と福島市内の借家に避難。知人の紹介で同市内に喫茶店の店舗を確保し、一一年七月から再開させた。しかし、先祖伝来の農地は深刻な状況に陥っていた。
収穫したブルーベリーからは、一キロ当たり七〇〇ベクレルの放射性セシウムが検出された。出荷制限の基準値の七倍。農地にはみるみるうちに雑草が生い茂り、サルやイノシシが出没。ブルーベリーの枝は折られ、地面は穴だらけになった。
「戦争の赤紙と同じ」と市沢さんが見なすものも来た。自身の農地を除染廃棄物の置き場にしたいという要請だ。「隣の区長を通じて頼まれた。田舎だとお上意識も強くて、こういうのは断りようがない」。昨年十一月に了承した。
仮置き場に運び込む前の「仮仮置き場」と説明されたが「本当に『仮の仮』なのか。中間貯蔵施設も最終処分場になりかねない。結局、いいかげんな話がまかり通りそうで怖い」。
農地の問題には、放射線量以外にも大きなハードルが横たわる。「若い世代が農業を再開させるなら、将来を見据えて設備投資もできるが、私たちの年代では見通しが立たない。それに若者の多くも、放射能を気にして帰村には慎重だ」
謝罪ない東電にいら立ち
こうした状況に加え、市沢さんにはずっと腑に落ちないことがある。東電の姿勢だ。市沢さんは「ちゃんと謝ってもらわないと、気持ちの整理が付かない。いらだちぱかりが募り、前を向けなくなる」と話す。
「これまで謝罪といっても、損害賠償の書類と一緒に『広く社会にご迷惑をおかけしました』と書いたA4判一枚の紙を送ってきた程度。何かの集会で東電の幹部が土下座したけど、パフォーマンスにすぎない。被災者の家を一軒一軒回って話を聞き、どんな迷惑をかけているのか理解したうえで謝罪すべきだ」
市沢さんら五世帯十四人の村民は一二年三月、日本では認められた例がないという「懲罰的慰謝料」などを求める訴訟を東電相手に起こした。ちなみに東電側に和解の動きはない。
事故の清算は終わっていない。そして今回の衆院選でも、被災地の困難や支援策が十分に語られているとは思えないと言う。
「事故からもうすぐ四年になる。記憶の風化は確かにある」。そう語る市沢さんは「復興」というスローガンも、議論を停滞させている一因とみている。
「被災者はそれぞれ複雑な問題を抱えている。それを一つ一つ乗り越えないといけないのに『事故からの復興』という言葉でひとくくりにされがちだ。これでは問題の本質が曖昧になってしまう。ジャブジャブとカネを注いで、除染やシンボル的なハコモノを造るばかり。そうしたことは真の復興とは言えない」
国会の原発議論停滞
実質審議2年で14回
この二年間、原発をめぐる国会の議論はお世辞にも活発とはいえなかった。
当てが外れたのは、衆院の原子力問題調査特別委員会だ。国会の事故調査委員会(国会事故調)の提言を受け、前回衆院選直後の通
常国会で新設された。
国会事故調が二〇一二年七月にまとめた報告書は、原子力特委設置を提言したほか、津波前の地震が事故の一因である可能性を指摘するなど、政府や東電とは異なる見方も示した。
この流れを受け、原子力特委では国の原子力規制委員会の監視にとどまらず、事故原因などをめぐり、活発な議論が期待された。
ところが、開会の回数は二年間で約二十五回だけ。実質審議は十四回だった。ちなみに特定秘密保護法案や、日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設関連法案を審議した衆院国家安全保障特別委員会は、一三年十月から約一カ月半で二十回開かれている。
一二年九月に国会事故調が解散した後、記録は国会図書館に保管されたが、情報公開法の対象ではなく、議員も閲覧できない。超党派の「原発ゼロの会」は資料の取り扱いルールづくりを求めたが、衆院議院運営委員会の図書館運営小委員会は、解散までに結論を出せなかった。
「ゼロの会」は一時は自民、民主、共産など九十人超を擁したが、前回衆院選後には約五十人に半減。国会の議論をリードするほどの影響力はなかった。
野党時代に国会事故調設置を求めた自民、公明両党は原発推進の姿勢を鮮明にしている。自民党は今衆院選で、原子力を「重要なペースロード電源」と位置付け、公明党も「原発ゼロをめざす」としつつも再稼働を条件付きで承認。公示前の調査では、自民党候補予定者の九割、公明党は八割が再稼働に賛成だった。
野党第一党の民主党は七割以上が原発再稼働反対。だが、東海地方の小選挙区出馬の党候補二十五人のうち十八人が「核燃料サイクル」推進などの政策協定を中部電力労組と結んだ。
維新の党は脱原発依存を強めるものの、即原発ゼロの主張は共産、社民両党など少数派だ。
(篠ケ瀬祐司)
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小出裕章先生:今現在、放射能で汚れた場所に人々が捨てられてしまっている
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