集団自衛権行使容認をめぐる会の見解
(立憲デモクラシーの会)
http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/
要点
1 内閣の憲法解釈の変更によって憲法9条の中身を実質的に改変する安倍政権の「方向性」は、憲法に基づく政治という近代国家の立憲主義を否定するものであり、「法の支配」から恣意的な「人の支配」への逆行である。
2 首相が示した集団的自衛権を必要とする事例等は、軍事常識上ありえない「机上の空論」である。また、抑止力論だけを強調し、日本の集団的自衛権行使が他国からの攻撃を誘発し、かえって国民の生命を危険にさらすことへの考慮が全く欠けている点でも、現実的ではない。
3 「必要最小限度」の集団的自衛権の行使という概念は、「正直な嘘つき」と同様の語義矛盾である。他国と共同の軍事行動に参加した後、「必要最小限度」を超えるという理由で日本だけ撤退することなど、ありえない。また、集団的自衛権行使を可能とした後、米国からの行使要請を「必要最小限度」を超えるという理由で日本が拒絶することなど、現実的に期待できない。
4 安全保障政策の立案にあたっては、潜在的な緊張関係を持つ他国の受け止め方を視野に入れ、自国の行動が緊張を高めることのないよう注意する必要がある。歴史認識等をめぐって隣国との緊張が高まっている今、日本政府は対話によって緊張を低減させていく姿勢をより鮮明にすべきである。
安倍首相の「二枚舌派兵」
軍事評論家 前田哲男さん
志位質問は、安倍流の集団的自衛権とは何か、そのまやかしを二つの主題で根底からただしたものでした。
第一は、アフガニスタン戦争やイラク戦争のような場合について安倍首相が「武力行使を目的として戦闘に参加しない」というだけで「武力行使しない」と明言しなかったことです。志位さんが何度追及しても、「目的」にこだわった。ここに首相の意図があることは間違いありません。
派兵の目的が戦闘でなく後方支援であっても、結果的に戦闘に参加することはありえるということでしょう。
第二は、これまで自衛隊を海外へ派兵するときにあった「戦闘地域には行かない」という歯止めを今後残すのかについて、「(戦闘地域かどうかの)判断基準をより精緻にする」「与党で議論する」と答弁したことです。
「非戦闘地域」とは、米国から強い派兵圧力を受け、政府が苦肉の策として編み出した概念です。これまで自衛隊が派兵されたインド洋やイラクのサマワなどは、戦闘が起きそうにないと説明できる場所でした。しかし今後は、文字通りの戦闘地域にも行かせるということです。
そもそも補給や輸送、医療などの後方支援は、戦闘を支えるためのものです。旧單は兵站(へいたん)と呼び、実際に行う場所は「後方」とは限りません。後方支援でも戦闘地域に行けば、いつ攻撃を受けるかわからず、攻撃しなければ、自分の部隊が危険にさらされることにもなるでしょう。
「戦闘を目的としない」といいながら、実際には戦闘に参加する。安倍首相のやり方は、「二枚舌派兵」というべきだと思います。
日刊ゲンダイ 2014年6月7日
こんな三文芝居のセレモニーに、まともに付き合うなんて、つくづくメディアの神経が疑われる。集団的自衛権の行使容認をめぐる自民・公明の与党協議会のことだ。
安倍政権は公明党に「集団的自衛権は限定して使う」とし、限定15事例を示した。メディアは自公幹部が意見を戦わせ、「軍事力重視の安倍自民党」vs「それにブレーキをかける公明党」という構図で報じているのだが、こんなのは茶番だ。権力の中枢にいて、甘い汁を吸い合っている連中が”協議”も何もないのは明白だ。公明党の山口代表はハナから連立離脱を否定しているのだから、なおさらだ。元参院議員の平野貞夫氏も本紙インタビューで”与党協議”のアホらしさをこう語っていた。
「与党協議の後に(協議の合意内容を)自民党に戻すわけでしょ。(自民)党内を説得するのに(解釈改憲反対の公明党が賛成したということが)使われるわけです。(公明党は)自民党でまとめてから持ってこい、と言うべきでしょう。そうじゃなければ、政党政治じゃない」
平野氏は1960年に衆院事務局に職員として入局したのを皮切りに衆院議長秘書などを経て国政に転じ、半世紀以上も政界に身を置いてきた人物だ。その戦後政治の生き証人は、「今の公明党は自民党の一派閥」と断じた。
公明党は安倍政権がアピールしたい「独裁じゃありませんよ」「ちゃんと議論しましたよ」というアリバイエ作に加担しているようなものだ。だったら、安倍の横暴、独裁ぶりを国民に見せた方がなんぽかマシで、こんな”与党協議”は百害あって一利なしというべきだ。
「安倍首相サイドが提示した集団的自衛権を行使すべき15事例には、個別的自衛権や警察権の拡大で十分に対処可能な事例か潜り込んでいます。狙いは『一点突破』でしょう。集団的自衛権とは無関係でも、公明党が1事例でもどれはしょうがないかと容認してしまえば、それをもって憲法解釈見直しの閣議決定にまで持っていける。あまりにも牽強付会な発想ですよ」(元法大教授・五十嵐仁氏=政治学)
こんな見え透いた仕掛けにパクツと食いついてしまえば「平和の党」の看板が泣くが、すでに複数のメディアは、いわゆるグレーゾーン事態の2事例について公明党か大筋で容認する調整に入ったと報じている。案の定の展開なのだ。
たった9人の政治家がコジ開ける戦争への扉
自民党内では与党協議会が始まった途端、石破幹事長らを中心に「今国会中に集団的自衛権の閣議決定を目指すべきだ」[与党協議の結論を先送りするな]という意見か活発になっている。その背景にあるのは、極めて乱暴で勝手な都合だ。
安倍はオバマ大統領と年末までに日米ガイドラインの再改定を約束した。新ガイドラインに集団的自衛権の行使容認を反映させるには、今国会中に閣議決定しなければ間に合わない。だから、サッサと決めてしまえという理屈である。
解釈改憲に慎重なら、こんな要求を突っぱねなければウソだが、さて公明党はどう出たか。
与党協議会の座長で自民党の高村副総裁が開催頻度を週1回から2回に増やすよう打診すると、座長代理である公明党の北側副代表は「やぶさかでない」と応じた。米国に尻尾を振りたくて閣議決定を急ぐ安倍を喜ばせたのだ。
まさしく正体見たりだが、恐ろしいのは、こんな”アリバイ協議会”の結論ひとつで、平和憲法の解釈が勝手に書き換えられてしまうことだ。協議会のメンバーは座長と座長代理を含めて、たったの9人。これっぽっちの与党議員がホンの数回、顔を突き合わせただけで憲法解釈が百八十度ネジ曲げられてしまう恐ろしさ。改めて言うまでもないが、集団的自衛権の行使とは、自国か攻められてもいないのに戦争をやるということだ。だから戦後の歴代政権が固く戒めてきたのに、それが閣議決定で解禁されてしまう理不尽。これによって、戦争への扉が開け放たれることになるのである。
「ひと握りの与党議員の判断で、事実上の憲法改正を決めてしまうなんて、国会軽視もはなはだしい。百歩譲って憲法解釈を本気で変えるなら当然、国会での熟議が必要だし、その国会は与党だけのモノではないのです。憲法を変えるには全国会議員の3分の2の賛成による発議が必要です。この高いハードルが嫌だからといって、禁じ手の解釈改憲がまかり通れば、国会は無用になってしまいます」.(立正大教授・金子勝氏=憲法)
この国は先の侵略戦争の反省に立ち、平和憲法を順守することで戦後70年近く、1人の戦死者も出さず、戦場で1人も殺さずにやってこられた。
「戦後日本の平和と繁栄は世界に胯るべきことです。その『戦後体制』に真っ向から歯向かっているのが、今の安倍首相ですよ。戦前回帰の政治によって平和憲法か葬り去られることを、どれだけの国民が望んでいるのでしょうか。大メディアは国会無視で憲法違反に邁進(まいしん)する『与党協議会』の議論をタレ流している場合ではないはずです」(金子勝氏=前出)
カルト教団やナチスを彷彿させる手口
安倍が解釈改憲の囗実に挙げ、しきりに強調しているのが「日本を取り巻く安全保障環境の変化」である。
日本の周りはこんなに危ない、いつ何か起こるかわからない。そんなことばかりを強調しているが、そうした危機をあおっているのはどこの誰なのか。メディアはこれも問うべきだろう。前出の五十嵐仁氏は。こう言った。
「安倍首相は自衛隊の戦力を近隣諸国に見せつければ日本の安全は守られると考えている。集団的自衛権行使は日本の。抑止力”という発想ですが、それでは安倍首相に聞きたい。アナタは日本の安全保障環境を安定させるための外交努力に励んでいるのか、と。安倍首相はシンガポールのアジア安全保障会議だけでなく、ブリュッセルのG7でも、中国を挑発した。限定容認に向けた15事例だって、中国の尖閣上陸や北のミサイル発射を想定したような事例を並べていますが、あまりに非現実的で荒唐無稽。近隣諸国をいたずらに刺激しているだけだと思います。つまり、自ら火をつけて騒ぎを大きくする”マッチポンプ”の手口と言うしかないのです」
国民に隣国の恐怖をあおりヽ不安を蔓延(まんえん)させ、軍事国家へと扇動しているのだとしたら、これはカルト教団の教祖やヒトラーのやり口だ。タイの軍事クーデターや北朝鮮の金王朝支配ヽロシアのプーチン大統領の国家統制よりも巧妙というか、タチが悪い。 ]
与党協議で国が変わる恐ろしさを、国民は真剣に直視しなければいけない。
政府、後方支援4条件は撤回 「戦闘地域」派遣は変えず
(東京新聞)
離島警備運用対処で一致
自衛隊の海外活動の際、憲法九条に基づき禁じられる「他国による武力行使との一体化」の判断基準をめぐり、政府は六日の与党協議で、三日に提示したばかりの四条件を撤回し、戦闘中の現場でないことを基本にした新たな三つの基準を提示した。撤回は公明党の反対を踏まえたものだが、新基準も従来禁じられてきた「戦闘地域」への自衛隊派遣を認め、人道的活動は戦闘中の現場でも可能にする内容。支援活動中の自衛隊が結果的に戦闘に加わるとの懸念は残つたままだ。
政府が示した基準は、
①戦闘が行われている現場では支援しない
②後に戦闘が行われている現場になったときは撤退する
③ただし、人道的な捜索救助活動は例外とする
との内容。その上で、前の基準と同様、武力行使との一体化を避けるため、派遣先を戦闘行為が
行われない「非戦闘地域」に限定していた従来の地理的制限は撤廃する方針を示した。
自衛隊の物資輸送支援は銃弾が飛び交う戦闘中でなければ、戦闘地域内でも可能になる。政府側出席者は会合で、基準に反しなければ、武器・弾薬の提供も可能との見解を示した。
「人道的な捜索救助活動」は、戦闘中の現場での民間人や負傷兵の救出を想定しており、自衛隊員が攻撃を受ける危険性がある。
政府は三日の与党協議で、「戦闘中の他国部隊への支援」などの四条件の全てに該当しなければ「一体化」には当たらないとする見解を提示していた。新たな三基準に対しても、公明党内では「自衛隊が戦闘地域で他国軍に襲われ、応戦する懸念がある」などの異論も出ている。
六日の与党協議では、武力攻撃に至らない領域侵害(グレーゾーン事態)の対応に関し、離島に武装集団が上陸した場合の領海警備などの二事例について、新たな法整備は行わず、運用の見直しで対処することで一致した。
海上自衛隊に警告射撃などの武器使用を認める海上警備行動の発令に関し、閣議決定手続きの迅速化などに取り組む。
武力行使」体化新たに3基準
「現場」の定義曖昧
政府は、前線での自衛隊の支援活動を可能にする「武力行使との一体化」の四条件を撤回し、新たに三つの基準を示した。しかし、これまで守ってきた「非戦闘地域」の考え方を取り払い、戦地で活動できるようにする方向性は同じ。公明党からは早くも懸念の声が出ている。
新基準は「戦闘が行われている現場」では、原則として自衛隊の活動を認めない内容。座長の高村正彦・自民党副総裁は与党協議の後「公明党から前回のような強い拒否反応はなかった」と記者団に説明した。
しかし「現場」の定義は曖昧だ。
政府側の礒崎陽輔首相補佐官は協議後、自衛隊が活動できる現場の事例に関し「直接戦闘する状況になければ行ってもいい」と指摘。具体的には、戦闘に伴い発生した火災などを意味する「武力攻撃災害が起きている段階」と説明した。街が燃えていても活動できるとの考え方だが「直接戦闘」が終わったと判断する基準や、どの程度の火災なら安全といえるのかの根拠は分からない。
「人道的な捜索救助活動」は、例外として戦闘現場でも可能とした。礒畸氏は「多少危なくても、人の救助ならば行ってはダメということもない」と明言。新基準でも、活動範囲を戦地に広げたい政府の立場は鮮明だ。
座長代理の北側一雄・公明党副代表は「これまでは安全なところで後方支援するということだったのを、もう少し柔軟に考えてもいいと私個人は思っているが、党内には相当議論がある」と党内の空気を代弁。党協議メンバーの一人は「自衛隊が他国でたくさん血を流したり、大を殺したりすることになる」と懸念を隠さなかった。
(新開浩)
歯止め利かぬまま 「戦地派遣」なお懸念 与党協議
(東京新聞【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2014060702000126.html
自民、公明両党は六日、集団的自衛権などに関する与党協議で、他国からの武力攻撃に至らない領域侵害(グレーゾーン事態)の対応について、運用を変えることで一致した。法改正して、自衛隊に新たな任務を持たせることは見送ったが、自衛隊の活動に歯止めをかけるより、広げる可能性をはらんでいる。
(後藤孝好、金杉貴雄)
グレーゾーン事態の対応では、自衛隊が即応できるよう、出動の可否の判断は首相に事実上一任される可能性が高い。
与党協議で示されたグレーゾーンの事例は、漁民を装った他国の武装集団が離島上陸した場合など。本来、海上保安庁や警察の任務で、手に負えない時に自衛隊が対応する。
自衛隊に海保や警察並みの権限を与え、事例のような時に出動を認めるのが海上警備行動と治安出動。自衛隊法では、首相や防衛相らの承認や命令で発令できるが、歴代内閣は抑制的に対応するため、閣議決定を前提にしてきた。
与党協議では、公明党も「迅速な命令は当然だ」と同調し、閣議決定手続きの見直しで一致。不測の事態に備えて、あらかじめ閣議決定しておく案などが浮上している。今後の政府・与党の検討次第では、1回の閣議決定で将来を含むすべての命令権を首相に付与してしまう可能性もある。
だが、事前の閣議決定は首相に「白紙委任」することを意味し、安易な出動につながる懸念も生まれる。
自衛隊が出動しやすくなれば、近隣との緊張を高めることにもなりかねない。海保や警察と違い、自衛隊は事実上の軍隊。周辺国は警戒を強めるはずだ。
中国海警局の船がたびたび侵入する沖縄県・尖閣諸島周辺の海域では、即応態勢を取る海保に対し、自衛隊はできるだけ前面に出ないようにしている。海上自衛隊幹部は「挑発に応じて自衛隊が出動すれば、中国に日本が先に手を出したと言われる」と慎重な対応を求めた。
事実上の解釈改憲だった
与党協議で政府は、憲法九条に基づいて禁じられている「他国による武力行使との一体化」に関し、三日に提示した四つの条件を撤回した。四条件は、過去政府が国会で「憲法上問題がある」と答弁してきた内容を覆すもので、事実上、憲法解釈を変えようという提案だった。安倍政権は集団的自衛権を行使できるようにするための解釈改憲を目指しているが、その前段の議論でも、憲法解釈を変えようとしていたことになる。
政府は武力行使を禁止する憲法に基づき、他国軍の武力行使との一体化」とみなされる支援を禁止している。内閣法制局や外務省幹部は、戦闘が行われている前線では武器・弾薬の提供はもちろん、食糧、医療の提供まで、憲法上問題があるとしてきた。
ところが政府が三日示したのは四条件のうち一つでも当てはまらない場合、支援を可能とする案。政府が「憲法上問題がある」としてきた戦闘地域での支援の多くが認められる可能性が高くなる。過去の答弁と根底から食い違う。
公明党だけでなく自民党内からも批判を受け、政府はわずか三日間で四条件を撤回。この問題での憲法解釈の変更は引っ込めた形だ。しかし六日に新たに示した「三基準」も他国の武力行使と一体化しない」といえるのかあいまいな内容で、従来より自衛隊の後方支援を拡大するものであることに変わりない。「一体化」をめぐる政府の迷走は、従来の憲法解釈にこだわらず、自衛隊の軍事的役割を拡大しようという安倍政権の姿勢を浮き彫りにした。
「尖閣防衛」は個別的自衛権 「グレーゾーン」も当たらず
(東京新聞【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2014061002000132.html
集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議が続いている。10日には5回目の会合が開かれる。安倍晋三首相は憲法解釈を変更して行使を認める必要性を強調し、与党に議論の加速を求めているが、その理由や検討している内容は分かりにくい。そこで多くの人が誤解しているかもしれない基礎的な問題を考えてみた。まずは沖縄県・尖閣諸島の防衛と集団的自衛権の関係について-。
(後藤孝好)
「中国脅威」は個別的自衛権
無関係
多くの人は尖閣を守るために、集団的自衛権の必要性が議論されているイメージを持っているかもしれない。中国の船が尖閣周辺への侵入を繰り返し、日中間の緊張が高まっている中で、首相は五月十五日の記者会見で集団的自衛権の行使容認の検討を表明。中国を念頭に「漁民を装った武装集団が、わが国の離島に上陸してくるかもしれない」と指摘し「対処をいっそう強化する」と述べたことも、そうした印象につながっている。
与党協議で最初に議論されたのが、この問題をめぐる自衛隊の役割だったことによって、さらに集団的自衛権との関わりを想起させた。
しかし「尖閣」防衛と集団的自衛権は関係ない。集団的自衛権は、主に海外で他国のために戦う権利。もし尖閣が武力攻撃され、自衛隊が反撃するとしても、自国を守る権利である個別的自衛権で対応できる。
しかも与党協議で議論したのは、個別的自衛権にも当てはまらない武力攻撃に至る以前の「グレーゾーン事態」。警察と海上保安庁が第一に対応する事態のことで、憲法解釈とは関係ない議論だ。警察と海保が対応しきれない場合、自衛隊に警察権を与えて出動させる今の仕組みに手を加えるかどうかを協議した。
首相が最近、国会答弁や国際会議で中国の尖閣周辺や南シナ海への海洋進出を念頭に「力による現状変更の試みがある。強い非難の対象とならざるを得ない」などと脅威を強調しているため、ますます集団的自衛権行使の問題と関係しているように見えるが、首相自身も武装集団の離島上陸は「グレーゾーン事態」と説明している。
本丸
集団的自衛権の行使を認めるのかが与党協議の最大の焦点なのに、グレーゾーンから議論に入ったのは、政府・自民党が行使容認に反対する公明党を誘い込みたかったからとの見方が強い。自衛隊の警察権が論点となり、公明党も検討に前向きだった。
政府は議論のたたき台としが必要な事例として十五件を提示。このうち、集団的自衛権に関する事例は半分以上の八件に上るが、あえてグレーゾーンの三件を「事例1~3」に並べた。実際に六日の前回協議まで中心的な議題になり、集団的自衛権の問題と混同される一因になっている。
公明党は集団的自衛権の議論を遅らせようと、個別に合意した内容から法案化などに入るよう求めた。これに対し、政府・自民党は集団的自衛権を含めて議論を終わらせ、まとめて方針を閣議決定すべ参だと譲らない。本丸は集団的自衛権と考えている表れだ。
グレーゾーンに関しては、前回協議で自民、公明両党が法改正は必要ないとの考えで一致。仕組みを見直し、自衛隊を出動しやすくする方向になった。十日の協議から、集団的自衛権の事例に沿った議論が本格化していく見通しで、公明党は警戒を強めている。
集団的自衛権 秘密保護法と同じ手法? 歯止め装う指針・最小限・限定
(東京新聞【こちら特報部】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014061002000153.html
「自衛隊の活動を限定する指針を作る」-。安倍政権は今国会中に、集団的自衛権の行使容認の閣議決定を目指すが、会期が残り二週間となり、「歯止め」を強調するようになった。何だか、昨年末に特定秘密保護法を成立させた際、「秘密が際限なく拡大することはない」と歯止めについて力説した時と似ていないか。
(上田千秋、榊原崇仁)
事前に強調…実は骨抜き
「指針は歯止めにはならないだろうし、『必要最小限』の範囲は縮ませたり膨らませたりできる。いくらでも好きなように解釈されてしまう」。岩村智文(のりふみ)弁護士は、こう危ぶむ。
政府は今国会が閉会する22日までに集団的自衛権の行使容認を閣議決定するため、自民党と連立を組みながらも慎重な姿勢を崩さない公明党の説得工作に躍起になっている。
その一つが、自衛隊の活動に歯止めをかける指針づくりの検討だ。①放置すれば日本が侵略される恐れがある事態に限る②多国籍軍による戦闘には参加しない③行使には国会の承認が必要─といった内容を盛り込む案が出ているが、拘束力の弱い指針がどこまで有効なのかは不透明だ。
政府は国民をけむに巻こうとしている節もある。安倍晋三首相は行使容認について自ら説明した先月15日の記者会見やこれまでの国会答弁で、「必要最小限」「限定的」といった言葉を何度も使った。ただ、岩村弁護士は「言葉の響きがいいだけで、状況は悪くなる」と切り捨てる。
集団的自衛権の行使が認められれば、自国が攻撃されなくても武力行使が可能になる。このため、「一番大きな歯止めが失われる。いくら必要最小限といっても本当は逆で、限界がなくなると考えるべきだろう」(岩村弁護士)。
また、小野寺五典防衛相は2日の衆院安全保障、外務両委員会の連合審査会で「自衛隊に新しい任務が可能となれば、自衛隊法改正を含め議論が必要になる。さまざまな議論を踏まえ歯止めが確保される」と「歯止め」を強調した。
しかし、こうした言い分がまやかしにすぎないことは、昨年12月に多くの国民の反対を押し切って成立させた特定秘密保護法の審議経過からも明らかだ。政府は成立直前、野党の求めに応じて4つの監視機関を設けると決めたが、うち3つは官僚がメンバー。チェック機能を発揮するのは難しく、絵に描いた餅に終わるとの見方が出ている。
歯止めのように見せ掛ける例は、集団的自衛権の問題だけにとどまらない。政府は6日、国際協力で後方支援ができる要件の一つに「戦闘行為を行っている現地では実施しない」ことを挙げる新基準を示した。3日に示した当初案は他国の武力行使との一体化を認めるような内容で、公明党などの反発を受けて直ちに撤回した。政府が譲歩した形にも見えるが、以前にあった「非戦闘地域にしか派遣しない」との考え方はなくなり、自衛隊の活動範囲は広がる。
日本弁護士連合会秘密保護法対策副本部長でもある岩村弁護士は「秘密法の時は後から『あれも必要』『これも必要』という話が出てきたが、本来なら事前に考えていくべきものだ。今回も同じで、なぜ必要かという議論を十分にせず、とにかく必要だからやる、足りない部分は後から考えればいいという発想になっている」と話す。
憲法解釈すでに目いっぱい
現行憲法の容認 個別的自衛権まで
歴代の政権は変更に慎重
「そもそも今の憲法が認めるのは個別的自衛権の行使までだ」と、首都大学東京の木村草太准教授(憲法)はくぎを刺す。日本国憲法をどのように解釈しても集団的自衛権の行使は認められないということだ。
政府はこれまで、9条に加え、国民の生命や自由、幸福追求の権利を定めた13条を根拠に「自らの国を自ら守る」という個別的自衛権を認める憲法解釈をしてきた。自衛権の発動には「わが国に対する急迫不正の侵害がある」など3要件が必要で、行使は必要最小限度の範囲とすることも厳格に決めてきた。
「わが国」ではなく、密接な関係にある「外国」が攻撃された際に発動するのが集団的自衛権だ。国連憲章で加盟国に認められた権利で日本も有しているが、自衛措置の限界を超えており許されないというのが、これまでの歴代政権の憲法解釈だ。
「憲法の中に、集団的自衛権の根拠となる規定がないので、行使は違憲の可能性が高い。『憲法も守れない国』では国際的な信頼を失う。行使を容認したければ、改憲するしかない。現行憲法の限界を法律家がこぞって指摘しているのに安倍首相は深刻さを理解せず耳を貸そうとしない」と木村准教授は話す。
一橋大の只野雅人教授(憲法)は「憲法は国家と国民の関係を定めた厳格なルールであり、閣議決定や国会議員の多数決だけで変えてよいものではない。現状がこうだからこうするという政策レベルの対症療法的な議論とは次元が根本的に異なる。その境界がうやむやになっている」と語る。
只野教授は、歴代の政権は過去の政府答弁との整合性に注意し、野党も厳しく追及してきたと説明する。自衛隊の海外派遣に道を開こうとした「国連平和協力法案」が廃案になることもあった。「憲法解釈は国会の厳しい議論の積み上げの末にできている。だからこそ、時の『内閣』の見解ではなく、『政府』の見解と位置付けられてきた」
しかし、安倍政権と自民党は閣議決定による行使容認の憲法解釈変更に向けた歩みを止めない。連立与党の公明党の北側一雄副代表が先月21日の参院憲法審査会で「論理的な整合性なしに解釈変更してしまえば、政権交代したらまたころころ変わって法的安定性を大きく損なう」と訴えても閣議決定を急ぐ。
自衛隊と米軍の協力関係を規定した「日米防衛協力指針(ガイドライン)」の年内改定に間に合わせることが理由の一つだという。自民党の高村正彦副総裁は1日、党山口県連の大会で、「(閣議決定は)今国会中に決めるのが極めて望ましい」と述べた。
東京大の西崎文子教授(米国外交史)はガイドラインの改定が1997年以来という点を踏まえ、「毎年見直すものではないから、急ぐ理由の一つにはなる」と語る一方、「安倍首相は自身にまだ勢いがある今だからこそ、第1次政権以来の念願だった行使容認を実現しようとしている側面もある」と指摘する。
同志社大の岡野八代教授(政治思想史)は「特定秘密保護法の強行採決の時と状況がよく似ている。悪法の本質が国民に知れ渡る前に通した。同じような手法を取ろうとしている」と指摘し、こう訴える。「首相自身が憲法の重みを理解できてないのに、憲法の解釈を変えていいはずがない。国民的な議論もないまま、首相の判断ばかりを優先させてはいけない」