学問・文化 月曜インタビュー
戦争の繰り返しを阻みたい
生き延びた命から知恵学ぶ
詩人 アーサー・ビナードさん
(しんぶん赤旗)2017年6月26日
「戦争が繰り返される仕組みとはいったいなんなのか」。詩人のアーサー・ビナードさんは、日本の敗戦70年の2015年からその問いを胸に各界の人々の体験をラジオ番組で伝えました。さらにそれを掘り下げて『知らなかった、ぼくらの戦争』を刊行。「ぼくらがこれから生き延びるための知恵が、先人たちの体験に詰まっている、発見の連続です」と語ります。
(児玉由紀恵)
「薄れゆく戦争の記憶。あの時代に残してきた思い、探しています」。ビナードさんのこんな語りから始まる放送は51回に及びました。
1941年の真珠湾攻撃に加わった元ゼロ戦パイロット原田要さん。真珠湾攻撃後、家族とともに強制収容所に入れられた米国在住日系人の兵坂(ひょうさか)米子さん。6歳のとき「満州」から修羅場をくぐり抜けて日本をめざした漫画家ちぱてつやさん…。有名無名に関係なく23人の話を収録。本(の語りにビナードさんの感想・分析を付けたユニークな成り立ちです。
真珠湾攻撃への疑問あぶり出す
「まず身内をさらけ出そう」と最初に置いたのは義母(詩人・木坂涼さんの母)栗原澪子(みをこ)みさんの体験談・国民学校時代の41年、日本が
インドシナを支配下においたら政府からの贈り物としてゴムマリが配給され、「戦争に勝つとゴムマリが来る」と子どもたちを喜ばせました。
「つまり子どものマリ欲しさの政治利用の具体例です。毋の次に置いた、原田要さんは真珠湾攻撃の現場で歴史の大きな矛盾に気づいたんです。米軍はすでに大事な空母を避難させていたということ。要するに日本軍の『卑怯な真珠湾奇襲攻撃』としてぼくがアメリカですりこまれてきた『定説』への疑問を見事にあぶり出してくれた。さらに、真珠湾攻撃を境に日系人が基本的人権をすべて蕁われる―。一人ひとりの話は独立していながらも、全体として戦争の仕組みがたどれるように編んだつもりです」
体験に向き合いどう背負うのか
語り手の懐に飛び込んで真情を引き出す、ビナードさんの聞く力をも感じさせる本です。
43年、ニューギニアに軍属として赴任し、現地住民殺害の罪でBC級戦犯として囚われた飯田進さんは、祖国への愛と裏切られた思いの「狭間(はざま)」で生きる苦衷を述べます。その心をくみ取るビナードさんに、飯田さんは、日本人よりはるかにわかってくれる戦友だ、と涙ながらに語ります。
「自分の体験にどう向き合い、どう背負うのか。同じ背負い方をしている人は一人もいないし、そこに生き延ぴる知恵がいっぱいあります。飯田さんは『狭間で生きる』という大事な知恵をぼくに手渡すことを決心されたのだと思いますね」
残された言葉に詩人の使命が
高知の歩兵連隊の一員としてニューギニアに赴いた西村幸吉さんは、60歳を過ぎてから現地に戻り「遺骨収容」を続けました。
「戦友との約束だという西村さんは、決して『遺骨収集』ではなく『遺骨収容』だという的確な、美しく痛烈な文章を書き残しました」
「権力者の言葉のインチキに針を刺す。これこそ詩人のやるべきことです」
戦争の辛酸をなめた人々は、奇跡的につながった命を「戦後づくり」に注いで、繰り返しを阻止してきた―。本書が浮かび上がらせる人々の歴史は、ビナードさんの日本で生きて27年間の集積に違いありません。
「秘密保護法、戦争法、共謀罪法と、今の日本は『お先真っ暗』の状況です。でも西村さんのお言葉を借りると、『くたばるのがイヤだから』、やれることはいっぱいある。日本国憲法が原形を保っていて第21条で表現できる足場がある中で、ぼくらが絶望したら小林多喜二にどう言い訳するのでしょう?戦後をつくり続けてきた先人だちから手渡されたものを生かしていきたいですね
「共謀罪」誤りの固執恥ずべきだ
国連特別報告者 ケナタッチ氏語る
(しんぶん赤旗)2017年7月3日
あの人に迫る
核あふれた世界
平和なはずない
藤森俊希 被団協事務局次長
(東京新聞)2017年6月23日
核兵器の開発や保有、使用などを全面禁止する「核兵器禁止条約」の二回目の制定交渉が、ニューヨークの国連本部で行われている。七月に条約が採択されれば、原爆が日本に投下されて以来、核兵器を禁止した初めての国際条約となる。三月に行われた一回目の交渉で、被爆者を代表して演説し、大きな反響を呼んだ藤森俊希さん(七三)に、この条約の意味と期待を聞いた。
(五味洋治)
「同じ地獄を、どの国のだれにも絶対再現してはならない」と訴えた国連演説には大きな拍手が湧いた。
国連での条約交渉の初日に話してほしいと言われ、原稿を準備しました。被爆した時、私は一歳の赤ん坊でした。母に背負われ病院に行く途中、爆心地から二・三キロの地点で母とともに被爆しました。偶然、直接熱線は浴びませんでしたが、爆風で吹き飛ばされました。赤ん坊だったので皮膚が弱く、顔は目と鼻と口だけ出して包帯でぐるぐる巻きにされ、このまま死んでしまうと思われたそうです。なんとか生き延びました。
後遺症は。
目立つようなものはありません。ただ被爆の影響でしょう。小学校に上がるまでよく熱を出し、寝たり起きたりでした。母の背に負われていることが多かった。休むことなく学校に出席すると出る皆勤賞とは縁がありませんでした。毎年八月六日になると母は、子供たちを集め自らの体験を、涙を流しながら聞かせました。その記憶が、私の被爆体験の原点です。
日本政府の対応について演説の中で「心が裂ける思い」と。
唯一の戦争被爆国の日本が、核兵器禁止条約の制定交渉開始を求める国連総会決議(二〇一六年十二月二十三日)に反対したことについてです。最初は「断腸の思い」と書いたのですが、独りよがりになってはいけないし、英語に訳しやすく、理解しやすいように変えました。演説の中の表現のいくつかは、そうやって最後まで書き換えました。真剣に聞いてもらい、たくさん拍手を受けました。理解してもらえたんだな、とうれしかったです。
なぜ、「心が裂ける思い」だったのか。
日本政府は、国際会議の場で必ず「唯一の戦争被爆国」と立場を説明してきました。核兵器に関連する国際会議にも出ていました。しかし、橋渡しどころか、核保有国が参加しない会議は意味がないと足を引っ張る発言ばかりでした。さらに、私が国連で演説した後、演説した日本の高見沢将林軍縮大使は「残念ながら現状では、建設的で誠実な形で交渉に参加することは困難」として、核兵器禁止条約の交渉会議に参加しないと表明しました。
どんな思いだった。
もし先に大使の話を聞いていれば、演説の中身を変えて、批判したでしょう。「今後は協議に参加しない」というのだから、橋渡し役として橋を架けないどころか、自分で橋を落としてしまった。思った通りにいかないので「やーめた」と自ら役割を放棄したということでしょう。成熟した態度ではありません。ただ参加できないというのなら、まだ理解のしようもあります。しかし「建設的で誠実な形で参加できない」とはっきり否定したわけですから罪は重い。精いっぱいやるべきなのに、一切やらないと言っているんです。
なぜ、こんな姿勢か。
日本政府にも理屈はあるのかもしれません。日本は唯一の戦争被爆国ですが、日本を守るためには核の傘が必要だと考えている人がいる。世論調査もでこぼこの結果が出ている。政府の対応は、そういう国民の意識を反映したものともいえます。しかし、不参加の理由はおかしい。
というのは。
核兵器を持って国の安全を守る。北朝鮮を見よ、核兵器を開発している。だからわれわれも核が必要なんだ。筋が通っているようですが、全く逆です。無差別に大量虐殺する他の兵器については、国際法や条約で禁止されている。ところが一番破壊力があって非人道的な結末を導く核兵器だけはない。どう考えてもおかしい。核兵器は必要で、世界に広がるほど安全が守れるという話になってしまう。地球上に核兵器があふれて平和になるはずがない。誤操作してしまう危険性もある。だからあってはいけないのです。
今回、核兵器禁止条約協議をリードしたメキシコなどの国は真剣だ。
われわれも一年もたたないうちにここまで来るとは考えていませんでした。
原水爆被害者団体協議会(被団協)は昨年四月に、核兵器禁止条約の制定を求める国際署名を始めました。すでに累計で約三百万人分近く集まりました。わずか一年で、こんな進展があるとは想像できませんでした。条約交渉会議の議長は七月七日の最終日までに禁止条約を採択すると言っています。われわれが想像できなかったスピードで、世界全体が核兵器禁止の方向に動いています。
議長はエレン・ホワイトさんですね。
中米コスタリカ出身の女性です。いち早く軍隊をなくした国として有名です。彼女の指導力は大きい。
なぜ採択を急ぐのか。
理由はトランプ政権にあると思います。トランプ政権はまだ、政府の人事が固まっておらず、完全には機能していません。トランプ大統領は、核兵器はない方がいいが、持っている国があれば、それ以上持つと増強する姿勢を表明しています。これまでは減らす方向でした。何かあると核兵器を使って威嚇するでしょう。北朝鮮への対応を見ても分かります。日本海に原子力空母を投入しました。禁止条約が急がれます。
市民の力も大きい。
今回の条約作りには市民の署名が大きな力になっています。例えば北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり、核兵器が配備されているオランダは、核兵器禁止条約の交渉会議に出席しました。これはオランダの市民の力でした。禁止条約の協議に参加するよう求める四万五千人以上の市民の署名が集まり、国会がそれを採択したので、政府も動かざるを得なくなった。市民と国会が協力すれば、大きな力になる。市民のパワーで状況は変えられる。オランダ政府が交渉で積極的な役割を果たしているわけではありません。「核兵器保有国の広い支持がない条約はだめだ」との立場を表明していますが、さまざまな角度からの発言があってこそ、議論は深まるのだと思います。
米国に危機感はあるか。
日本政府は「条約作りは簡単には進まない」と冷ややかに見ていますが、米政府は違います。NATOの加盟国と米国の同盟国に対して、核兵器禁止条約の交渉会議の開催を求める決議に反対し、開かれても参加するなと文書を流し、圧力をかけました。ほとんどの国が米国の圧力通り反対しましたが、決議は国連の第一委員会、総会とも賛成多数で可決されました。条約交渉会議が開かれる可能性を把握していたのです。
もし七月に条約ができたら、効果はあるか。
あります。非核兵器国の圧倒的多数が条約を批准すれば、核保有国は何のための核保有かということになります。条約の草案は核保有国が参加できるよう門戸を開いています。私も七月には、国連に行き、条約成立を見届けるつもりです。
あなたに伝えたい
大量虐殺する他の兵器については、国際法や条約で禁止されている。ところが一番破壊力があって非人道的な結末を導く核兵器だけはない。どう考えてもおかしい。
ふじもり・としき 1944年、広島市生まれ。早稲田大理工学部在学中東京で就職。1歳4カ月の時に、家族7人とともに被爆。4番目の姉が犠牲に。3番目の姉は7歳の次男をリンパ性急性白血病で亡くし、本人も被爆者に多い肝臓病で亡くなった。母、カスミさんは、毎年8月6日、涙を流しながら子供たちに被爆体験を語り、つらい思いをしてなぜ話すかとの問いに「あんたらを同じ目にあわせとうないからじゃ」と言った。定年後、「田舎に住みたい」という妻の希望で「スキーができて、アユ釣りが楽しめる」長野県茅野市に転居。2010年に長野県原爆被害者の会会長。12年から被団協事務局次長。各地で自分の体験を語っている。
インタビューを終えて
核兵器禁止条約のプロセスに参加しないと宣言し、「禁止条約は核兵器のない世界に資さないばかりか、逆効果になりかねない」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)と批判する日本政府の姿勢は、本当にもどかしい。
藤森さんは「日本政府の姿勢は子どもっぽい」とも表現したが、私も同感だ。
すでに条約の草案は公表されており、現行の核不拡散体制を認めたうえで、広島、長崎の被爆者に言及し、核兵器の非人道性を訴える内容となっている。多くの国がこの条約に賛同している。
この動きの中心にいるべき日本政府は、残念ながら世界から取り残されている。
注目の人直撃インタビュー
政治は人の命や生活に関わること。
タブー視するのはおかしい
タレント 松尾貴史
(日刊ゲンダイ)2017年6月30日
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/208426
議論を拒み、「中間報告」という禁じ手で「共謀罪」法を成立させた安倍政権に対し、ツイッターで〈悪辣、卑怯、狡猾、下品、姑息〉といった激しい言葉を羅列して批判した。皮肉を効かせた風刺を身上とするタレントの松尾貴史氏(57)には珍しいストレートな物言いだ。ものを言わない芸能人が多い中、堂々と自らの主張を発信するのはなぜか。その思いとは―。
心根も作法も悪い安倍政権
―共謀罪の法案審議中、頻繁にツイッターで発信していました。感情をむき出しに言葉を並べていましたね。
安倍政権は心根も作法も悪い。世の中には、発する言葉は上品だけれど志が低い人もいれば、表現は下品だけれど、志は高いという人もいる。そんな中で救いようがないのは、言葉も表現も下品で志も低い人。今の政権の国会運営がまさにそれだと感じました。怒りが強すぎたんでしょうね。抑えられませんでした。この怒りの矛先は自分自身にも向いていて、日本が暗黒の道に進む確率の高い法律を作ってしまうことを止められなかった自分にも腹が立ちます
―下品で志が低い。どんな場面でそう感じましたか。
一番強くて偉い立場の人が、ヤジを飛ばしたり、関係のないことをだらだらと話して、答弁をしているふりをしたり。おまけに、「人を指ささない方がいいですよ」って言いながら、ご自身はしょっちゅう人を指さしている。なぜ、ご自身だけは特別扱いなのか。国会や委員会は神聖な場所であるという意識が少しでもあれば、そうした品のない振る舞いにはならないはずです。隣の国の3代目と似たところもあるかな、とすら思ってしまう。本当にめちゃくちゃですね。
思考停止はまずい
―ツイッターでは、〈「他に支持するところがない」というのは自死に向かう思考停止だ。強力な悪人と微力な凡人を比べて前者を選ぶという愚か〉とも嘆いていました。
一度法律ができてしまうと、その廃止を公約に掲げた政権に交代しない限り、永久に残るんです。共謀罪法の成立で、僕らの子供や孫たちが生きる時代が、陰惨で残酷な世の中になる確率が格段に高まったと思います。もちろん僕自身に何かを変えられる力はありません。それでも、国民の多くが自分で判断することを避け、思考停止している現状はまずい。政治に興味を持ったり、政治的な発言をすることが、行儀の悪いことであるかのように思う風潮も違うと思います。
―刺激的な発言をしたことで、嫌がらせも多かったようですが。
攻撃してくる人は、ほとんどが匿名なので相手にしないようにしています。ただ、いい気持ちはしないので、すぐにブロックします。先日、確認したら、1100人ぐらいブロックしていました。もっとも、同一人物が別のアカウントを作って攻撃を繰り返してくるので、実際は十数人程度でしょう。ネットって、正確な数は隠れてしまうんです。炎上騒ぎといっても、ごく一部の人がお祭りにしているだけ。本当に炎上に関わったことのある人はネット人口の1%にも満たないと思います。テレビ局などが炎上や苦情を大騒ぎしたりしますが、そんなものを何かの判断基準にするのはバカバカしい。
―嫌な思いをして、発言をやめようとは思いませんか。
確かに、芸能人が思想信条を語るとネットサポーターやネトウヨが大挙して攻撃してきます。でも、芸人も俳優も歌手も、みんな税金を払って生活しているわけです。なぜ政治に対して意思表示してはならないのか。米国では、アーティストやアクターがエージェントを雇うスタイル。みな個人事業主なので自由に発言しています。一方、日本の芸能人は芸能事務所に雇用されているので、事務所に迷惑をかけないように穏便な表現を使う人が多い。社会性を重んじる文化もあり、周りに迷惑をかけたくないという美徳もあります。まあ、僕は行儀が悪いんですよ。
―刺激的な発言をしたことで、嫌がらせも多かったようですが。
攻撃してくる人は、ほとんどが匿名なので相手にしないようにしています。ただ、いい気持ちはしないので、すぐにブロックします。先日、確認したら、1100人ぐらいブロックしていました。もっとも、同一人物が別のアカウントを作って攻撃を繰り返してくるので、実際は十数人程度でしょう。ネットって、正確な数は隠れてしまうんです。炎上騒ぎといっても、ごく一部の人がお祭りにしているだけ。本当に炎上に関わったことのある人はネット人口の1%にも満たないと思います。テレビ局などが炎上や苦情を大騒ぎしたりしますが、そんなものを何かの判断基準にするのはバカバカしい。
―嫌な思いをして、発言をやめようとは思いませんか。
確かに、芸能人が思想信条を語るとネットサポーターやネトウヨが大挙して攻撃してきます。でも、芸人も俳優も歌手も、みんな税金を払って生活しているわけです。なぜ政治に対して意思表示してはならないのか。米国では、アーティストやアクターがエージェントを雇うスタイル。みな個人事業主なので自由に発言しています。一方、日本の芸能人は芸能事務所に雇用されているので、事務所に迷惑をかけないように穏便な表現を使う人が多い。社会性を重んじる文化もあり、周りに迷惑をかけたくないという美徳もあります。まあ、僕は行儀が悪いんですよ。
―松尾さん自身、何かしら圧力を感じることはありますか。
それはありません。情報番組のコメンテーターは久しくやっていませんが、これは僕の論調の問題ではないと思います。もっと激しく発言している人も出演していますから。
公正中立なんて存在しない
―できるだけ議論しないで衝突を避ける空気が日本中に蔓延している気がします。
僕は公正中立なんていうものは存在しないと思っています。だから、マスコミもむしろスタンスをしっかり出していただきたい。その意味では、(政権批判をする)日刊ゲンダイはマスコミとして正しい姿勢であり、(政権に近い)読売新聞もまた正しいんです。テレビもそうあって欲しいですが、放送法のややこしい規定など縛りがある。それでも、当番組はこれに賛成とか反対とか、きちんと示せばいいんじゃないかなって思います。
―日本では政治や宗教の話は避けますよね。そういうことも関係しているのかもしれません。
政治や宗教をタブー視するのはおかしいですよ。宗教は生き方ですし、政治はすべての人の命や生活に関わること。僕には支持政党がありません。選挙はいつも政党ではなく人物で選びます。そもそも、政党政治があまり好きではないし、党議拘束が日本をダメにしていると思っているんです。政治家はさまざまな考えを持っているはずなのに、政党に入ったら全ての政策で同じ意見を言わなければならない、というのが気持ち悪い。長い目で見ると、日本にとってマイナスだと思います。
日本の本当の美しさとは
―人物で選ぶとすると、どなたか期待する政治家はいますか?
それがねえ、いないんです。今の僕は、安倍さんが推す人じゃない人を選びます。これは思考停止ではありません。考え抜いた末の結論。安倍政権に対抗できる少しでも当選しそうな人に投票する、という選択肢しかないかなと思っています。「反対」の意思表示は非常に大事です。
―白票も反対の意思表示だという人もいますが。
白票は何の役にも立ちません。(安倍政権は)「白票が増えたねえ。批判票が多いんだねえ。じゃあ、襟を正すか」なんて人たちではないでしょう? 日本人は優しいですよね。お友達を優遇したり、政治を私物化していても、大して怒らない。支持率が下がったとはいえ、一桁になるようなことはないでしょう。本当に人がいい。“美しい国”ですよね。
―安倍首相の言う「美しい国」と松尾さんの考える日本の美しさは違う?
僕は、日本の本当の美しさって、伝統を大事にして、花鳥風月や春夏秋冬を大切に扱うことだけでなく、ものを無駄にしないとか、弱い立場の人も尊重して、コミュニティーを平穏に保つ知恵を絞るとかだと思うんです。本来は、こうした美しさを愛することこそが「愛国心」なのではないでしょうか。ところが、今の政権は、「美しい国」を標榜しながら、裏腹に、こうした美しさをどんどん壊しています。そして、時の政権に従うことが「愛国者」だと錯覚している人が多いなという気がしています。
(聞き手=本紙・小川泰加)
▽まつお・たかし 1960年、神戸市生まれ。大阪芸術大芸術学部卒業。北新地でDJやスプーン曲げのショーに出演しているところをスカウトされ、芸能界入り。テレビ、ラジオ、舞台、映画、作家、カレー店の主人など多彩な活動を続け、「キッチュ」の別芸名でも知られる。新著に街歩きエッセー「東京くねくね」(東京新聞)を上梓。
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インタビュー:核あふれた世界平和なはずない / ぼくらが絶望したら小林多喜二にどう言い訳するの?
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